フォッシルになった夜



 俺の想いはまったく濁らず澄んでいるのに、吐き出す精はまるで心を裏切るようにとろとろと白く濁っている。
 サイタマが中には出すなと言うから腹のほうに掛けたらそれでも怒られた。適当にしておくと乾いた精液が下の毛に絡んでカピカピになるのがいやなんだと。
 とはいえ、この齢の男にしてはソコの毛も薄いわけで、そんなに手間でもないんじゃないか? と思ったことを慰めのように口にすれば普通に怒られた。

「疲れてなかったらいまお前を殴ってた」
「そうか、今日は頑張ってよかった」

 反省なんて一つもない返答に顔を歪めたサイタマは気怠げに腕を持ち上げ、俺の肩をべちっと迫力なく叩く。その力の無さといったら。胸のうちが、わっと愛しさで満ちていく。サイタマが本気を出さなくたって、俺の肩を吹っ飛ばすだけの力はきっと今だって出せるのに、甘やかされた暴力は俺を付け上がらせるだけだ。
 もう少し夜が長ければ、もう一回抱いたのに。
 サイタマが聞いたらまた怒るであろうことをちらりと考える。
 それでももう二人とも調子にノリすぎて、普段は感じない倦怠感にふわふわと身体を包まれていたから、ベッドサイドに置いてあるティッシュを数枚引き抜いて、適当に汚れを拭い簡単に身なりを整えるだけに留めた。
 いくら屈強な身体をもっているとはいえ、負うものの種類によっては耐性のつけようもないのだろう。受け身という役割はやはり負担で、サイタマは日頃から力の入っていない目を、さらにとろんと蕩けさせている。凡そ神がかった肉体を持つものとは思えないのろまな動作で「もう寝る」と一言。「おやすみ」と言うとたっぷり間をもってから「おやすみ」と返される。
 サイタマはもぞもぞと数度身体をくねらせ眠る体制を整えると、程なくして、ゆっくりと呼吸を落ち着かせて寝入ってしまった。
 普段から寝付きのいいサイタマだけれど、こういうことのあとは一入だ。
 俺はまだぼんやりとサイタマを眺めていて、向かい合ったかたちのまま、右手をサイタマの腹部へ伸ばした。パジャマがわりにくれてやったシャツをさっと羽織っただけの、殆ど裸の腹。綺麗についた腹筋を手の平で味わう。
 ここが大きく膨らんで、中に夢やら希望やらの塊が芽生えればいいのだが、生憎ただただ気持ちがいいだけで、俺たちの行為にたどり着くところはない。
 紫煙を吐き出すように、ふうと息を吐き出す。
 もう少しすれば、拭いきれなかった白い細胞は、化石になっていくのだろう。
 実を結ぶこともなく、乾いて化石になっていく。
 誰の腹を膨らませることもなく、はじめから無かったのと同じように、無意味で、けれど絡み付くその鬱陶しさと片付ける手間だけはかかる。
 それならはじめからないほうがいいに決まっている。
 どこに出しても間違いで、本懐も遂げずに干からびて化石のようになっていくだけ。夢や希望の成れ果ては面倒だけを生んで何の役にもたちゃしないんだ。
 俺の想いは清く澄んでいるはずなのに。
 サイタマは俺を愛しているはずなのに。
 サイタマを抱きしめたくなったけれど擦り寄るだけでやめた。
 俺のかわいいサイタマ。
 無駄なだけならこんなことしなくていいと思うだろうが、こうして悲しんだぶん褒美に気持ちいいことをやらないと均等が取れないのだ。
 こんなブザマな夜でもお前がそばにいれば幸せだと思えるよ。
 これ以上の幸せはない。
 これ以上の幸せはないのだ。
 これ以上、幸せにはなれない。
 化石に変わる俺の想いたちよ、墓場がサイタマの肌の上でよかったな。それだって、俺には得られない幸せだ。
某インディーズバンド楽曲より。
検索避けは入れてますがインディーズなので念を入れてバンド名など伏せておきます。
恐らく精液のことを「白い神さま」と歌っていて、それが無様になる等する曲です。
もしかしたら白い神さまは精液ぜんぜん関係ない可能性もあります。


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