明け方の空は夜の暗さを水に溶いたようにうすら青い色をしていて、ひやりと冷たい温度をもつその色は、カーテンを通り抜け部屋を淡くしんしんと染める。
息と共に深く吐き出した煙は甘いにおい。寝室にはつくりものの花のかおりが呼吸のたび弱々しく広がった。
フ、と。青の中に、濁った白が溶け込む。
以前吸っていた天国に一ばん近いと謳われていた煙草はにおいが嫌いだと言われてからもうずいぶんと吸っていない。
じゃあ代わりに、と用意した正反対のにおいがするコレもサイタマは「甘ったるい」と言って好いてはいなかったが俺のほうが気に入ってしまったから、今はこいつを愛煙していた。
ジッと煙草に火をつけてあまいにおいの煙が立ち上るたびに、いやそうに顔をしかめていたサイタマだけれど「好きなんだ」と言い訳のように吐き出した煙混じりの言葉に対しては、なんの否定もしなかった。そういう、あまくて依存性が高いところは、サイタマもこの煙草もよく似ていると思う。
さらりとした絹擦れの音と共に、よく眠っているサイタマが夢でも見ているのか、言葉になりきらない声を漏らして小さく身じろぎをする。薄い体を包んでいたタオルケットはいま裸の背中をむき出しにさせて、俺はそれを、こんな夜明けに、熱心に、熱心に、描き写すのだ。
うなじに浮き出た骨の形。
ベッドに生まれた細かい皺。
盆の窪に落ちる、うっすらとした影さえ美しくて、鉛筆を滑らし鈍い黒を重ねていくと、抱え込んだスケッチブックに愛しいサイタマが浮かぶ。
塗り重ねた黒の影を親指できつくなぞると、それは、サイタマを取り囲む影の濃度にうんと近くなり、紙の中にちいさな現実が生まれた。
部屋には、さらさらと鉛筆を擦る音と、世界で一ばん優しい寝息、それから、あまい煙草のにおいが満ちている。
眠るサイタマばかりを描きうつしたこのスケッチブックには、世界で一ばん長く生きる、こんこんとした愛が満ちている。
いつかお前がいなくなったら、とても寂しくてたまらないから、いま無防備に眠るお前とそこにある愛をこうして紙に閉じ込めて、俺は、それを後生大事に、大事に、していくんだ。
そんなこと、そんな俺の気持ち、お前は知らないだろう?
でも別に、わかってほしいわけじゃない。知られないことより、わかってもらえないことのほうがつらいから、お前にも、誰にも秘密で、俺はとらえようのない心地で絵を描く。
サイタマ。
お前に出会ってから、俺の心はいつも、あたたかくてやわらかな、春の夢を見ているんだ。そしてその中は、涙が出るような青で満ち溢れている。
ゾンビマンの趣味をいろいろ考えていた時期に書きました。
他にもカメラや音楽が趣味だったら、と考えていました。
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