「お前が好きだ」と言ったときの無表情には温度がなくそれは熱くもなければ冷たくもなかった。どうでもよさそうに繰り返されるまばたきは常に奴の視界を鮮明に映すのにその日常を鮮やかに彩ることはしない。
サイタマ。
そいつはいつも独りだった。
奴は弟子のサイボーグと常に一緒にいたがそこには、サイタマと弟子が一人ずつで存在しているだけで、奴に追いつき、肩を並べられる理解者などこの世に到底居はしないのだ。
まるでふつうの人間のようでいて、他と交わらない異質さは、サイタマをとても特別に魅せ、だから、俺は好きになった。
この世界で俺に与えられた役割とはトランプで云うならばババ抜きのジョーカーで、弾かれたまま、いつまでたっても一抜けできない。
けれど、さびしく弾かれた裏側、ジョーカーはいつだって、最強のカードとして存在している。それならサイタマ、お前だってジョーカーだ。
俺は、お前と一緒じゃないと駄目なんだ。
それはいくら、サイタマがこの想いを「意味わかんない」と短い言葉ではねのけても、事実だから覆せなかった。他のことにならなんだって頷いてやるけれど、これに関しては、頷かなくてはいけないのは、サイタマ、お前のほうだ。
「サイタマ」
と呼べば詰まらなそうな声で
「なに」
と返された。
「好きだ」
と言ったら
「飽きないんだな」
と寄越される。
サイタマの小さな黒目が俺を映し、それから珍しいことに、唇の端がつんと少し持ち上がった。それは僅かにからかいを含んだ表情をしていて、だけれど声はいつも通り、おかしげに弾むこともなく、まっすぐ引かれた線をなぞるように淡々と単調なのである。
「じゃあ」と紡がれた声には速度がなく、鼓膜をさらりと撫でるかのように薄かった。
「いつか世界が滅びても、おまえが生きてたら付き合ってやるよ」
小さく笑んだ表情で告げた言葉にあるのは、鯢が空を飛んだら、真冬に真夏の向日葵が咲いたら、そんな無茶を並べるように、諦めを諭す緩やかな拒絶だった。
「いつか世界が滅びても、」
俺の不死身を抜き取って作られた言葉は、拒絶を示したサイタマの意思に反して、俺にはとても希望に満ちて、輝いてさえいるように思えた。
気まぐれのように、または切迫するように、何度、死にたく思っても、死にきれなかったこの身が、いまさら世界より先に滅ぶものか。サイタマの言葉を聞いた今なら、なおのことだ。
いつか世界が滅びても。
いつか世界が滅んだら。
いつか世界が滅んだのなら。
その時は、俺とサイタマ、世界にたったふたりだけ。その喜ばしいいつかの日を、どうして待ちわびずにいられるか。
俺たちは、おそろいのカードなのだ。ふたりにならなくちゃ意味がない。
――ぼくのカードはなんたってジョーカーで とても強くてとても寂しい
大森靖子ちゃん『少女漫画少年漫画』より。
とても好きな歌なので改めて、これを参考にじっくり書けたらなと思っています。
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