がらりんどう






 口にいれると奥歯のほうからじんと痺れるようにあまい、べっこう飴のような金色は、しかし周りの無機質な黒が冷たく沈めてしまうので、そのあまさは塞がれ、もっと耽美に、もっと空虚に、もっと冷ややかに仕立てあげられている。だからそれを口に含んで飴のように転がすこともできず、俺は四苦八苦しながらチェーンをつけて、首からぶら下げたらあとは、それを大事にするしかない。
 いとしい彼の左だか右の目。
 狂サイボーグとやりあった挙げ句自爆したジェノスが残したのはいつも熱を宿していたこの深い黒と輝く金の目だけだった。あとは鉄屑が散らばっていたけれどそれが狂サイボーグのものなのか、ジェノスのものなのか、俺にはわからなかった。あんなに愛していたのにばらばらになった体の見分けもつかないのはさびしくもあったが、だって仕方がないことなので、とにかく俺はころがっていた目玉ひとつにすがるしかなかったのだ。
 ジェノスをサイボーグにした博士は狂サイボーグのものとより分けたジェノスの金属パーツを俺に必要かと聞いてきたけれど、俺に必要なのはジェノスであって、粉々になった金属屑ではない。それならこの目も必要ないように思えるけれど、でもこれは誰のものとも間違えようがないジェノスのものだから、どちらかといえば必要だった。ないよりあったほうがいい。だってやっぱりさみしいんだもんなんにも残らないなんてのは。

「ところで」
とゾンビマンが言う。

 無視をしようかと思った瞬間「サイタマ」と名前を呼ばれて、それ以上意識を逸らすことを許さなくされる。視線を向けると、艶やかに光る真っ赤な瞳。これもまた、口に入れたらあまい味がしそうだと思った。

「お前、いつになったら俺のものになってくれるんだ。あの弟子はもういないだろう?」

 わざと口のはしをつり上げて象られた笑みは軽薄に見えるが、その裏側の本性はただのさみしがり。そのさみしさに突き動かされて都合のいい夢を見るのだ。こいつも。
 だから、今日も、言い聞かせる。

「俺にはなんにも残ってないから、お前のものにはなれない」

 何回も聞いたはずの台詞をまた聞いただけなのに、ゾンビマンは眉を下げてアっという間にかなしそうな顔をした。ほら、そっちが本性だ。

「でも、お前の弟子はもういないだろう?」

 繰り返された言葉と共に伸ばされた手は首から下げた目玉に向かう。体を反らし、手で制して「やめろよ。ジェノスが見てる前で」と言ったら絶望なんて慣れっこなゾンビマンの表情がくしゃりと歪んだ。
 なにをどう欲されたって、持っていたものはぜんぶあのサイボーグの青年に呉れて遣ってしまったのだ。だから俺にはなんにもない。
 ゾンビマンが俺を欲しがったって、あげられるものはなんにもないんだ。
 なんにものこらないっていうのは、やっぱり、とても悲しいことだ。悲痛に歪んだゾンビマンの表情は、その考えは正しいことだと、いつも俺に訴えてくる。





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