i want you by come



「君には華がある」と誰もがうっとりと表情を蕩けさせる声色で囁いても彼は顔色ひとつ変えずにいて、それならば、と頬を撫でようとすると、やんわりと、赤い手袋をはめた手に退けられた。
 あア、いま、手が触れた。
 たったそれだけのことに、心臓が高鳴る。

「俺が花だったら、じゃあお前はなに? 宝石とか? キラキラしてる」

 眩しいものでも見るかのように細められた白眼が際立つ眼は、それなのに嫌そうにも歪んでいて、目の前の光景とは対照的に僕の唇は喜色を描いた。

「宝石は好きかい?」

 尋ねると「あったら売るかな」と返された。
 次に「それなら、お金がほしい?」と尋ねて一歩詰め寄ると「なにお前。怖いんだけど。話し通じないし、なんか、ギラギラしてる」と言われ、詰め寄った分以上に距離をあけられる。
 どれもこれも、彼の唇から零れ出るのは稚拙な言葉だ。きらきら、ぎらぎら、と子供が口ずさむような音で僕を表現して、この完璧な美しさをあまりに気安く「宝石」と呼ぶ。まったく飾り気がなくて、あまりに平凡で、どうしようもない無関心さと、それらと同じだけの純粋さがそこにはあった。白よりもっととらえられない、見えない透明という色で、彼はさらさらと音を流す。

「てゆーか、誰だよお前」
「その言葉を君から聞くのはこれで三回目だ」
「え、うそごめん……」

 不愉快そうに寄った眉と、同じ感情を元に眇められた目はたちまち申し訳なさそうにおろおろと形を変えて、窺うように僕を見るが、数秒後には、罪悪感などはじめからなかったかのようにあっさりと逸らされる。
 街には僕を知らない者の方が少ないというのに、彼はすぐその「大勢」を抜け出し例外になってみせるのだ。

「謝るのは僕の方だ。忘れてしまう前に来てあげられなくてすまない」
「なに言ってるかわかんないけど、この話まだ続く?」
「もう少し」

 少しなら、と彼は言う。
 彼にとっては見ず知らずの、赤の他人である僕のわがままを柔らかく受け止めたようで、その実受け流しているだけの無関心に甘えた。

「君には華がある。君は華だ」

 さっきと同じ台詞にさっきよりも熱を込め、心の中で「僕の」と言葉を付け加える。
 手を伸ばすとまた払われた。
 はぁ、と漏れたため息はもうすっかりこの状況に飽きているようだ。

「ならお前は虫だな。花に寄って来る」

 うんざりしたように言われた言葉に目を丸くすれば「じゃあな」とくるりと背を向け白いマントが風に靡く。
「もう少し」の少しは考えていたよりもずっと短く終わってしまったが、それより、やはり、彼はなんて、素敵な人なんだろうか。
 彼は、何百、何千、何万もの人々が誉めそやす僕を、いとも容易く、宝石にも、虫にも変える。純粋で平等なあの目を通せば、それらはすべて正しく、真実である。
 あア、彼は、紛れもなく花だ。美しい姿の真ん中に、甘い蜜を隠しているから誘われてしまう。それを伝えたとして、彼は頬を染めることもなくきっとまた嫌そうな顔をするのだろう。しかし彼の残した「ならお前は虫だな。花に寄って来る」という言葉は、世の条理に乗っ取っていて、だから、こうして焦がれてしまうのも当然、仕方のないこと。この世界はそういう風に出来ている。それなら、いずれは彼だって僕を必要とするだろう。なぜなら、花が虫を誘うのは、いつだってそれが必要だからだ。


タイトルは駄洒落なのでそんなに意味がないです。虫媒花!


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