『思い立ったが吉日』なんて言うけれど、受験やオーディションなんかは思い立ったその日に行動なんて出来ない訳で、じゃあどうするのか?って話になりますが。
「…私、中学受験したい。」
「…は?」
とりあえず報告から。と、思って話しかけたのは片割れの勝己。生まれた時から同じ部屋で、さすがに小学校高学年に上がってからは、部屋の真ん中をカーテンで仕切ってお互いのスペースを分けている。と言っても着替えと眠る時以外は全開にしているのですが、珍しく閉まっていたカーテンを少し開けて勝己に言えば珍しく驚いていた。
「…ンでだよ。」
動揺したのか少し間を置いて勝己は理由を聞いてくる。こういう時勝己はちゃんと聞いてくれるからいいお兄ちゃんだ。
「…私、お父さんとお母さんに、勿論勝己にも心配かけたくない。」
「俺は光がどうなろうが心配しねえけどな。」
私に不幸が降りかかる度、大小関わらず毎度心配してくれてるのは何となく分かる。
多分双子故のエンパシーなんだろうけど、勝己はそういう科学的根拠が無いものを認めたがらないし、もっと言うと自分の事をわかったふうに言われるのが嫌いだ。だから、ここで口を挟んでくるだろう事はわかっていたので、一応反応を見る。
「そっか、でも私は勝己含め家族が大切だし、余計な心配せずに生きて欲しいなって思うよ。」
「…で?」
なにか気に触ったのか、聞き返した語気が少し怒っているように強い。
「だから、全寮制の女子校にでも通おうかなって、思って…」
「……」
最後の方は鋭い視線を感じて声量が落ちていった。ので、ほぼ囁きに近かった。
勝己がなにかしら言ったり反応するだろうと思っていたけれど、まさかの無言。無反応。
怖い。怖すぎる。
あまり見たくないのだけれど、恐る恐る勝己の表情を伺うために顔を上げれば勝己は真剣な表情で私を見ていた。
「父さんと母さんは知っとんのか。」
「あ、や、まだ、言ってない、けど、」
どもった。恥ずかしい。
反対されると思っていたので、いや、肯定されたわけでもないんだけれど、素直に聞き入れられるとちょっとびっくりしちゃう。
「光の言う余計な心配ってのが、怪我とかアホみてぇな個性事故でのことを言ってんなら、」
「アホて…」
「“余計な”が頭にくんのは違ぇだろ。」
「…え、」
本当にびっくりした。
と言うか、勝己にとって引っかかったのが私の突然の受験願望じゃなくて、卑屈な見解の方だったのが意外過ぎた。
多分今の私は相当笑えるあほ面を披露している自覚がある。
それくらいびっくりした。
「ッチ…あんなァ、光が俺らを大切とか言っとんのは、俺がやめろっつって覆るもんなんか
?」
「…覆らない。絶対に。」
「光が思ってる事なら少なからず父さんと母さんも思ってんだろ。」
「…うん、」
「自分等のガキなんて心配しかしねえだろ。それを“余計な”とか、勝手に言ってんな。」
「うん。」
確かに。私は家族が一番大切だ。だから、何かあったって聞いたらすごく心配する。それは一方通行じゃないのに、勝己にちゃんと言われないと気付けないなんて、私は自分で思っているよりも自己中心的な頭をしていたようだ。
私がはっきりと返事をしたからか、勝己は満足気に短く息を吐いた。
「でも、」
「あ?」
怖。怖すぎる。
でも、中学受験はやっぱりしたいよ。って言おうと思ったのに、それを一言で黙らせる表情。凶悪すぎる敵面。昔自分にも勝己みたいな表情が出来ないか、好奇心に突き動かされて鏡の前で試してみたけど、表情筋が吊りそうになって結局出来なかったから、相当高等技術なんだと思ってたのに、今も維持してる。
双子なのにそこは似なかったな。
「でも、中学受験はするよ!心配かけたくないのは勿論だけど、自立もしなきゃって思う。から、その、」
「…っけ、」
結構頑張って言ったのに、鼻で笑われた。
私はお父さん似で気が弱いの知ってるくせに。
「…そんな言うなら早めに言わねぇとダメだろ。」
「…え、」
「…ンだよ、早く父さんと母さんに言うぞ。」
「っ!ありがとう〜!!」
勝己に言うのの五倍くらい両親に言うのは緊張する。と言うか、緊張するからまず最初に片割れの勝己に報告をしたのだ。あわよくば援護射撃してくれないかな、と思っていたのに気付いたのだろうか?
本当に頼りになるいいお兄ちゃんだ。