怒涛の受験勉強に必死に食らいつきながら、やっと終わった受験戦争。
長かったようで短かった。でも、あの苦労は無駄じゃなかった。
私も勝己も無事に雄英に受かって、明日からは誰もが羨む雄英生だ。
届いた制服を身にまとった時これが高校生か〜!と浮かれていたら勝己にめっちゃ八つ当たりされたのはまだ記憶に新しい。
というのも私と勝己の間で勘違いがあって、勝己は私にもヒーロー科を受けろ。と言っていたらしいのだが、私にその思考はなく。私が受けたのは普通科。勝己がヒーロー科試験に行く時、ギリギリまで見送ろうと思ってついて行ったので、合格発表報告まですれ違っていたのだ。
通りで試験内容の話でズレがあったのか。
まあ、雄英高校普通科に無事合格した今勝己がなんと言おうとどうにもならないのですが、私も言葉足らずのところがあったので勝己の八つ当たりをちゃんと受け止めている。
「…勝己、明日何時に家出るつもりでいる?」
入学式を明日に控え、早々に眠りにつこうとする勝己に声をかければ心底だるそうにこちらを向いた。
相変わらずの敵面で一瞬怯んでしまう。
「…ンでそんなこと聞くんだよ。」
「…だって、勝己はヒーロー科で私は普通科でしょ?」
「ッチ、」
「…授業が始まれば時間割は別だし、お友達ができてその子達と行動するだろうし、一緒に行けるの明日くらいじゃん。」
バッチリ舌打ちをされたけど、私の言いたい事はちゃんと言えたので達成感がすごい。
ドヤ顔で勝己を見つめれば長く深いため息を吐いた。
なんで?
「…どーせ光くそ早い時間に家出るだろ。」
「ん、まあ、念には念を。ね?」
なんてったって明日は華々しい高校生デビュー第一日目!しかも私が受かったのは国内有数の名門校、あの雄英高校ですよ?浮かれないわけが無い!まあ、私が浮かれていたり、楽しみにしている行事の時は毎回土砂降りの雨か、道すがら個性事故に巻き込まれたりとか、その他様々な不幸が身に降りかかる。といった恒例行事があるので、身構えないわけが無い。
なので、明日は早めに出たいのだ。
そう思って勝己の目を見れば面倒くさそうに息を吐いた。
ちょっとため息吐きすぎ。
「…家出る三十分前に起こせ。したら一緒に行ってやる。」
「…!!」
欠伸を噛み殺しながら了承の返事を頂けて歓喜に声も出ない。
多分早く寝たくて言ったんだろうけど、それでも嬉しい。三年ぶりに勝己と一緒に学校に行けるんだ!
お礼を言おうとしたけど、勝己はもうベッドに横になって寝息をたてているので、配慮して小さな声でお礼を言った。
「…ありがとうね、お兄ちゃん。」
清々しい朝。と言っても念には念をと思って起きた時間はまだ薄暗く寒い。
「…おい光起きろ。」
「…んえ?」
私を起こしたのはセットしていたアラームではなくて、双子の兄の勝己。寝起きで少しぼけているような声が珍しい。
私も少し朦朧としながら時計を見れば予定していた時間を大幅にすぎていた。
家を出る予定の三十分前。勝己を起こす時間だった。
「…っえ、アラームは!?なんで!?」
「…鳴っとったわ。うるせえから俺がとめたった。」
「うわー!!酷い!酷すぎる!!」
そんな感じで時間を気にして声量を抑えて叫びながら、私は支度を進める。
本当はヘアアレンジとかしたかったのに、これじゃ着替えて歯磨いてご飯食べて終わりじゃん。
勝己の阿呆。
内心勝己を罵倒しながら着替えていれば珍しく機嫌良さげにカーテンを閉めていた。
いつもなら閉めるのを忘れて着替え始めるとクソ痴女が!って怒ってくるのに。変な勝己だ。
「お父さんと二人で後で行くから、勝己も光も気をつけて行くのよ!」
「はーい!行ってきます、お母さん!」
「行ってらっしゃい。」
終始無言な勝己の代わりに、私が勝己の分も返事をした。つもり。
帰り一緒になったらジュース奢ってもらおう。
一人でスタスタ歩いて行ってしまう勝己の隣に駆け寄れば遅せぇよ。と言われた。
勝己が早いんじゃん。
少しカチンときたが今歩幅を合わせてくれているので許すことにした。
今のところ空には雲ひとつないので、土砂降りは無いだろう。と一人安心した。天気予報でも今日は快晴だと言っていたので倍安心だ。
目的地雄英高校まで、電車に乗っていれば時間が時間なだけに人はまばらだった。
乗り換えをするために降りて、目的地付近になると人が増え始めて、これはなにかあるかな〜?なんて身構えていたけれど、勝己が壁になってくれたおかげで満員電車でも余裕のある空間で、気づけば雄英高校の最寄り駅だった。
「ありがとね、勝己っ、わっ!?」
ぼふんっ!!
目的の駅に着き、満員電車の中から勝己と一緒に降車して人の流れから少し外れて勝己にお礼を言った直後。
同じく降車してきた女性と衝突、淡い色の煙が私の周りを覆い尽くしたかと思ったら頭上と背中の下の方に違和感を感じた。
「…にゃにぃ?」
「…まじか、お前。」
口から出た言葉は上手く発音出来なくて、少しの恥ずかしさに勝己を見ればありえないものでも見てるような、驚愕半分呆れ半分の表情の勝己がため息混じりにそう言った。
「ごめんなさいっ!!」
「にゃっ!?」
固まる勝己の反対側、私と衝突して尻もちを着いていた女性が勢いよく謝罪をしてきて何となく理解した。
恐らく私は今謝り倒している女性の個性事故に巻き込まれてしまったのだろう。
勝己を見れば心底面倒くさそうな顔で私の写真を撮って見せてくれた。
そこには猫耳と尻尾が生えている自分が映っていた。
「猫っぽい事ができるようににゃる個性ですかにゃ…。」
「本当にごめんなさい。いつもなら暴発なんてしないのに、起きた時から熱っぽくて、でも会社休む訳にもいかなくて、本当にごめんなさい。迷惑かけて、生きててごめんなさい。」
「…いえいえ、本当気にぃしにゃいでくださいにゃ。」
悪意があったわけでもなく、体調不良故の暴発なんて仕方の無いことだ。むしろあんなに気にしていた本人の方が心配になってしまった。
「愛する者の口付け(にゃ)!?」
聞いてびっくり、この個性の解除方法は御伽噺でお馴染みの方法だった。
あまりの衝撃に勝己とハモった。
その解除方法が成功しない限り、半永久的に個性が解けることはないらしい。
唯一の救いはこの個性にかかっている間も自分の個性は使えるという事。
個人的に良かったと思ったのは、慣れてきたら普通に話せるようになるらしい点だ。
「…お母さんにぃ連絡しといた方がいいよにゃ?」
「…もう連絡したわ。アホ猫。」
「…にゃんでそんにゃ事言うんにゃ!?」
「…。」
呆れきった勝己は私の言葉なんて聞いてくれない。
いや、もしかしたら理解不能なのかも。
自分ではちゃんと喋ってるつもりなのに、なにぬねのがにゃにぃにゅにゃにゃになる。しかも語尾が絶対にゃになる。高校生になったのに。恥ずかしくて悟りを開きそう。
「…!!にゃにぃ?」
「…いや、っふ、素直だな。」
「…っにゃ!」
恥ずかしくて耳が下を向いていたようで、勝己が頭を撫でてきた。
びっくりしたけど、意外と気分がいいのと嬉しいのとで喉はゴロゴロなるし耳は動いちゃうし、尻尾なんて勝己の腕に巻きついている。
まじで恥ずい。
そんな感じで恥ずかしさ最高潮の中雄英高校に到着。一応先生に報告をと思っていれば勝己も着いてきてくれるようだ。
意外と優しいじゃん。と思っていれば、今の光じゃ会話ができんだろ。と言われた。酷い。説明くらい…と思ったけど、喋れてるつもりでも聞く側に迷惑かけるか。と思ってぐっとこらえた。
「…失礼しました。」
「失礼しましたにゃ。」
説明を終えて職員室を後にすれば一気に緊張してきた。
いや、規模がでかい。校舎はでかいし広いし、職員室にいた人達皆ヒーローだったよ。実はヒーローオタクな私には楽園じゃん、雄英高校!
でも、登校だけでこんな大惨事に巻き込まれちゃって、これから三年間大丈夫なのか。
授業が始まれば勝己とは予定合わないだろうし、友達だってできるか不安だし。
昨日までルンルンだったのに。
「…光、帰り連絡すっから勝手に帰んなよ。」
「えっ、あっ!わかったにゃ!!」
また耳が下を向いていたのか、勝己が励ましてくれた!
勝己の一言で不安が減るなんてお手軽な奴だ。
でも、勝己から一緒に帰ろうって言ってくれるのなんて本当に珍しいから。
個性事故に合うのも悪くないかも。と思ってしまいました。
これからよろしくお願いします。雄英高校!