唇から刻む恋

時計を見ると0時前。
もう、1日が終わってしまいそう。

今日は私の誕生日だったんだけどなぁ…。


そんなことを思いつつも、まぁ、私の誕生日を彼が覚えているなんて最初から期待してはいなかったのだけれど。
それでもやはり寂しいもので。
誕生日くらいは一緒に過ごしたかったな、なんて思っていると自然に目尻に涙が溜まってくるのがわかった。




すると不意に開く部屋の扉。


「なんで…?」

そこには今日を一緒に過ごしたいと思っていた彼が立っていた。



「なまえ、泣いてんのか?」
「ちがっ…」


こんな顔を見られたくなくて隠そうとすると、彼の大きな手に引き寄せられた。ゆっくりと髪を梳く手に安堵を覚え、堪えていた涙が一筋落ちた。



「悪かったな、遅くなっちまって」


ぶっきらぼうに手渡されたのは綺麗に包装された小さな箱だった。


「これやる」
「なに?これ…」

包みを開けて見ると一本の口紅が。


「ジンさん、これってもしかして…?」
「さァな」


もしかしなくても、彼は私の誕生日を覚えていてくれていたのだ。

素直にそうだとは言ってくれなかったけれど、気持ちが篭っているのは彼の表情や仕草を見ればよくわかった。



「それ貸せ」

そう言われてその口紅を差し出すと、すっと顎を持ち上げられて紅が私の唇にのせられた。
近づく距離に、いつもより優しい手つきで塗られていく感覚に、頭がくらくらしてきて、鼓動が速くなる。
私に口紅を塗るジンさんはいつになく真剣で綺麗だった。



「なまえに似合ってんじゃねぇか」

彼は満足そうにそう吐いた。






***

「なまえ、その口紅どうしたの?」
「これ?誕生日に彼から貰ったんだ」
「へ〜」
「何、その反応」


ニヤけた反応を示す友人の言葉がひっかかる。


「まぁまぁ!存分に彼の期待に応えてあげなさいよ!」




ジンさんが私に口紅を贈った理由…その意味に気づくまでもう少し。




2017/05/24 rewrite