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「かーずくんっ」
「は?」
寮の中で不意に後ろから声をかけて、怪訝そうな顔で振り返った一也をぱちりと激写する。
練習終わり、土を頬につけたユニフォーム姿の幼なじみ。
カシャン、と響いた携帯の撮影音に眉を顰めた一也が「こーら」と手を伸ばしてきたので、それを掻い潜って後ろにいた健二郎さんの背中に隠れた。追いかけてくるので逃げ回る。
「おい待てこら、消せ」
「やだ! おじさんに送る」
「尚更だめ! お前なんでそんな親父とメールしてんだよ!」
「かずくん成長記録をおじさんに伝える義務があるので」
「……どうでもいいけど俺を挟んでぐるぐるするのやめてくれ」
うんざり気味の健二郎さんから離れたところで呆気なく捕まったものの、おじさんへのメールは送信完了していた。後ろからがっちり抱え込まれて「おーまーえーはー」とほっぺをぐにぐにされる。痛い痛い。
通りがかった純さんは呆れきった顔でこちらを眺めていた。
「おい御幸コラ寮の中で不純異性交遊すんな」
「ふじゅっ……違います!」
「いたたた」
勢いよく突き飛ばされてよろめいたのを、一也と違って紳士な健二郎さんが受け止めてくれる。
「御幸ってたまに扱い雑なことあるよな」
「照れてるだけなの」
「うるせーなもうっ」
ちょっと顔を赤くして部屋に戻っていく一也の後ろ姿を見送ると、健二郎さんが「珍しいものを見た」とちょっと笑っていた。
その横顔をぱしゃり。
わたしの携帯が自分の方を向いていることに気付いた彼は、「え」とぽかんとしている。
「みんな一番大人になっていく時期に実家から離れてるんだから、せめて写真くらいたくさん撮って、家族に見せてあげないとね」
「……最近、やたらと写真を撮るなとは思ってたけど」
「もっと早くに気付いてあげられたらよかったんだけどね。卒業する時にアルバムでも作ってあげようかなって……」
ぽちぽちと今撮った写真を保存してから携帯を閉じる。照れたような表情で頭を掻いた健二郎さんが「そっか」とうなずいた。
「なんていうか……」
「ん?」
「今すっごい、愛を感じた気分」
「あはは。そうかも」
「倉持倉持、ねえ写真撮って」
「ハァ? 俺下手だぞ」
「そこは頑張って。お母さんが写真送りなさいって言ってきたの」
おじさんからの返事はまだ来ていないけれど、母から久しぶりにメールが来た。
夕飯を終えて食堂でのんびりしていた倉持に携帯を渡し、試合のDVDを眺めていた一也の肩を叩いて振り向かせる。《あんたら元気にしてんの?》という本文だったので、うちの次男の写真も送ってやらねば。
おじさんに写真を送るのは嫌がる一也だけれど、うちの家族に送るのは問題ないらしい。よくわからないけど、おじさんに対しては恥ずかしい年頃なのかしら。
「あーそういやお前、一人暮らしだったっけ」
「そらお母さんも心配やろなぁ。オウみんなで入ろうや、元気にみんなのお母さんやっとるって伝わる写真がええやろ!」
「あ、賛成。俺も入るー」
「ついでに俺も」
「いやゾノ狭めーんだけど」
倉持の言葉にゾノくんが一也を押し潰す勢いで画面に入ろうとしてきた。わたしの方にはノリくんや健二郎さんが寄ってくる。
携帯をテーブルに置いた倉持が「どうせだからナベちゃんたちも呼んでこようぜ!」とヒャッハーしながら食堂を出て行った。なんかどんどん大騒ぎになってきたぞ。
「もう……すぐ話を大きくするんだから」
でも、わたしがみんなの写真を撮って親御さんに見せてあげたいと思うのと同じように、彼らも想ってくれていることは十分に伝わった。
思わず口角が緩んでしまった隙に、カシャン、とシャッター音が響く。
一也が携帯を向けてきていた。
「……やだ、間抜けな顔してない?」
「美人美人。見てノリ」
「うわーほんとだ美人」
にやにやしながらみんなが携帯の画面を覗き込んでいる間に、倉持に声を掛けられた同期が続々と集まってくる。どうやら寮生のほとんどが連行されてきたらしい。
こんなにいっぱい画面に入らないと思うけど。
もう、……しょうがないんだから。
「顔緩んでるぜ」
一也に指摘されて思わず口元を両手で隠してみるものの、あんまり効果はなかったみたい。
なんていうか今、すっごく、みんなの愛を感じた気分。
案の定全員は入らなくて、面白がった純さんや文さんが代わる代わるたくさん写真を撮ってくれて、わたしの携帯のカメラロールはみんなの写真でいっぱいになった。
何枚かお母さんに送ったら《ちゃんとマネージャーやってるみたいで安心した》と返事が来たので、みんなに見せたら喜んでいた。
二通目に《かずくんが一番イケメンだね!》と付け加えられたのは黙っておこう。
健二郎さんに零したアルバム作成の計画がばれたのか、その日から部員たちは写真を撮ってはわたしに送りつけてくるようになった。
いつか卒業して大人になって別々の道を歩みながら再会した時、この写真を一緒に見て、みんなで笑い合えたらいいよね。
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2018/05/01〜2018/05/31 拍手御礼文でした。高校二年生五月頃のお話です。