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「ポッキーゲームしよう」

 そう言った紅子はポッキーの箱から一本取り出して、チョコレートのかかった方をわたしの唇に押しつけた。
 十一月十一日。
 特に暦に意味はなくても、みんななんとなくポッキーやらプリッツやらトッポやら、棒状のお菓子を買いたくなるらしい。

「あんたなに派?」
「小枝派」
「短いわ」

 流されるまま紅子の差し出したポッキーを咥えると、反対側の持ち手の部分を彼女が食んだ。
 え、ほんとにやるんだ。
 至近距離で女の子と見つめ合う状況にちょっと戸惑いつつ、でも紅子睫毛長いな、ちょっと色素薄いな、相変わらずキリっとした美人だなと感心しながら一口だけ噛んだ。
 じっくりゆっくり、お互いの顔を鑑賞しながら食べ進めていく。

 ちなみにさっきから、一也と倉持はその様子を眺めながら「どこまでやるんだあいつら」「今うしろから押したらどうなるんだ」と呑気にプリッツを食べていた。

 気付けば鼻先が触れあいそうな位置。
 近すぎるせいで焦点もぼけて、紅子の顔がぼんやりしている。

「……どうするの、これ」
「いや途中で折れると思ってたから考えてなかった。キスしとく?」
「そんな、教室のど真ん中じゃ恥ずかしい……」

 ぼきっ。

 突如介入してきた掌がわたしと紅子の間に差し込まれて、ポッキーを真っ二つに折った。
 ぱちぱち瞬きをしながら離れて、不満げな顔でプリッツをもぐもぐしている一也を見上げる。

「なに御幸。やきもちかよ」
「紅子さん悪ふざけは大概にして。お前も! 変な恥じらい方するんじゃねぇ! 妙な気持ちになっちまっただろうが」
「あはは。一也もやる?」

 なかなかのセコムっぷりに笑いながら、一也に折られたポッキーをいーっと突き出してみると、『イラァッ』と効果音のつきそうな顔になった彼は額に青筋を浮かべた。
 首の後ろを掴まれて、勢いよく顔が近付いてくる。
「は!?」と驚いた声を上げたのは倉持だ。
 ついでにクラスメイト達から黄色い歓声が上がる。
 視界が一瞬暗くなったと思ったら、次の瞬間には咥えていたチョコレート部分が引き抜かれていた。

「こ……公衆の面前でなにやってんの御幸……ゴメンそんなに気に入らなかった……?」

 若干引き気味の紅子が珍しく下手に出る。
 わたしから奪い取ったポッキーの残りを咀嚼しながら、一也は「ったく」と零してスコアブックを開いた。呆気に取られた様子の倉持がぱちぱちと瞬きをしながらわたしを見る。

「……アウト?」

 なに、その訊き方。野球部だからか。
 とはいえ倉持をいじりたい気持ちが芽生えてしまったので、指先でこれ見よがしに唇を触ってみた。

「キスしたいならそう言えばいいのに、一也」
「……うるせーな」

 ちらりと横目に一瞥すると、察した様子の一也はわざとらしくそっぽを向いた。
 毎度律儀にひっかかってくれる倉持がわなわなしながら「……!!??」と声も出せず震えているが、隣の紅子は「はいはい」とその手からプリッツを奪って食べている。

「お、お前らいつの間に……」
「あれ、倉持知らなかったっけ? 紅子には話したよね、確か」
「ああなんだっけ付き合うことにしたんだっけーびっくりだわーつか今更感半端ないわー」
「マジかよ!?」
「嘘だよ」
「おいテメェ表出ろッ!!」

 一人大騒ぎする倉持に、クラスの子たちがちょっとびっくりしていた。

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だいぶ前の拍手御礼文でした。二年生の11月です。わたしはフラン派です。