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「早く決めろよ……」

 隣でうんざりとした様子のかずくんにせっつかれて、わたしは唇を尖らせながら保温器の中の中華まんを睨みつけた。
 十月中頃、まだ気温の上がる日もあるけれど、数日前に十二月中旬並みの低気温を記録したせいか多くのコンビニで中華まんやおでんを取り扱い始めている。かずくんのシニアの練習に付き合った帰り、通りかかったコンビニに幟が立っていたので、ついつい引き寄せられてしまったのだ。

 ピザまん、あんまん、肉まん、豚まん。
 かれこれ悩むこと三分。
 最初はいつ注文するかと待ち構えていた店員さんも、苦笑いで「決まったら呼んでね」と品出しに向かってしまった。

「……何と何で悩んでんだよ」
「豚まんとピザまん……」
「両方買えよ半分こにしてやるから! すいませーん!」

 かずくんが声を上げて手を振ると、おばちゃんがパタパタ走ってきて「はーい、決まった?」と笑った。

「もーこいつ全然決まんねぇの。豚まんとピザまんください」
「はいはい、結局二つにしたのね。仲良く半分こなさい」

 コンビニを出ると、太陽が江戸川の街並みの向こうに沈もうとしているところだった。下町の素朴な建物の並ぶ通りを二人で歩きながら、まずはピザまんをいただく。中身のチーズがびろんと伸びて落っこちた。
 顎にひっついたチーズを拭おうとすると、隣のかずくんが「ぶふっ」と吹き出す。

「食べるの下手くそかよ」
「思ったよりチーズが伸びただけですぅ」
「一口ちっちぇーな」

 仕方のないものを見るような優しい目つきになった彼が手を伸ばしてきた。指先でわたしの顎をくすぐって、多分ひっついたチーズを取ってくれている。暗がりに悪戯っぽく笑った幼なじみの、少し無骨な指先の感触がこそばゆかった。


「おーい、早く決めろよ」
「ちょっと待ってー」

 自分の買い物を済ませた倉持と前園くんに声をかけられて、わたしは唇を尖らせながら保温器の中の中華まんを睨みつけていた。
 吐く息が白くなる十二月中旬。たまたまコンビニに行く用事があるという同期数名にひっついて行ったところ、ほかほかの中華まんが目に入ってしまったのだ。ピザまん、あんまん、肉まん、豚まん。どれもこれも美味しいのがわかっているので、倉持に呆れられるほど悩みまくってしまう。

「また悩んでんのかよ」

 笑いながら近寄ってきた一也の右腕にするりと腕を絡ませて「あのね、ピザまんと豚まんなんですけど」と、こてりと頭をすり寄せた。

「またその二つかよ。両方買えよ、半分こにしてやるから」
「わーいっ。すみません、ピザまんと豚まんください!」

 一也のホットコーヒーと一緒に受け取って倉持と前園くんに合流すると、腕を絡ませてやって来たわたしたちに呆れきった表情になっている。

「やーっと決まったんか。遅いぞ」
「はは、もーこいつ全然決まんねぇの。昔っからそう」

 店を出た同期二人の後ろ姿を追いながら、すっかり日の暮れた夜空に浮かぶお月様を見上げた。吐き出した白い息と、最初に取り出したピザまんの湯気が後ろに流れていく。
 またいつかの冬にもこうして、半分こできたらいいなぁ。
 隣の幼なじみにぴとりとひっつくと「ん?」と顔を覗きこまれる。「チーズは伸びてないですか、お嬢さん?」と悪戯っぽく笑った彼の伸ばしてきた指先が、あの時と同じように顎をくすぐって、それがなんだかこそばゆかった。

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2017/11/17~2017/12/05 拍手御礼文でした