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「おはようございます。梓さん。」
「安室さん、おはようございます。」
榎本梓さんは急にお休みを頂いても寛大な心で赦してくれるポアロでの先輩だ。人懐っこい笑顔や話術、彼女のファンは少なくない。少しドジな面もあるが学ぶこともある。「あ、そういえば知ってますか?」
開店準備を進めながらころころと表情を変え閑話を始める。名前とは大違いだな。彼女は表情や感情のバリエーションが少な過ぎる上にその発現も稀だ。初対面のときよりは幼い部分が出るようになったがそれ以外は感情を読み解くのが難しい。
「ちょっと、安室さん聞いてます?」
「あ、すいません。なんでしたっけ?」
「だーかーらー、最近杯戸町で空き巣が頻発しているらしいんです!」
「そうなんですか?」
「なんでもとっても慎重な犯人で、念入りに作戦を練ってから侵入するらしいですよ。だから今も捕まってないんだとか。」
怖いですよねーと彼女は眉を下げ言った。
一般的な住宅よりはセキュリティの万全なあの家では侵入される心配はないだろうが帰ったら一応警告はしておこう。
「ところで、なぜそんなに詳しいのですか?」
「さっき外の掃き掃除をしているときに毛利さんが言っていたんです。捜査協力するそうですよ。」
「へぇ、さすが毛利探偵。殺人事件以外にも引っ張りだこですね。」
そうですねーとどこか雑な相槌に笑ってしまう。この人はこういう所がある。
「そういえばエスプレッソマシンって二台ありましたよね?」
「えぇ、ありますよ。一台はバックヤードに置いてあります。」
「それ少しの間お借りできませんか?」
「あとで店長に聞いてみますが良いと思いますよ。だって使っていないんですから!」
「ありがとうございます。」
よし、これで練習が出来る。僕は元来負けず嫌いなのだ。絶対に名前に美味しいと言われるエスプレッソを淹れてやる。
「(…安室さんのうしろに炎が見える…。)」