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白いフワフワの髪と口ひげが特徴の“博士”にポアロまで連れてきてもらいみんなで喫茶を満喫しようとしているところだ。気のせいでなればバーボンもとい安室は笑顔でこちらを凝視している。入店したときも視線で殺されてしまうかと思ったくらいだ。
「いらっしゃい、少年探偵団のみんな。」
とってもいい顔で人数分の水とおしぼりを置いた。
「名前さんはどうしてここに?」
彼は笑顔でこちらを見ながらもギリギリとグラスを握っていた。怒っているのが伝わってくる。あ、待ってそんなに握ったらグラスが割れちゃう。
子供達には本当の年齢は言っていないので精一杯子供のフリをする。
「だって、一人でおうちにいるの寂しかったんだもん。」
秘義きつねかぶり!(※猫かぶりです。)
「…そ、そうでしたか。あともう少しですから一緒に帰りましょう。」
あの彼の反応が遅れ尚且つ吃ったということは多少の動揺は誘えたようだ。
大きな掌が頭に触れる。ぽかぽかと胸のあたりが暖かくなるのを感じた。初めての感覚に戸惑いながらオレンジジュースを注文した。
子供たちが明日の授業の話をしているのを聞きながらイギリスにいたときのことを思い出していた。
留学していたのはちょうどこの子たちと同い年くらいの頃だった。学校へは行かず家で家庭教師に教えてもらっていたしそのあとは日本に来て大人に囲まれて生活していたから同年代の友達はいなかった。今まで何の疑問も不満も抱かず過ごしてきたが、私にもこういった日常があったのかもしれない。そう思うと少し寂しさが胸を掠めた。
「ねぇねぇ名前ちゃん。」
「名前さんは給食何が好きですか?」
「え、えっと私はイギリスにいて、学校には行ってなかったから…。」
「へー名前さんは帰国子女なんですね!」
「哀ちゃんと同じだね。」
哀ちゃん、ふと視線を向けると俯き加減の彼女の顔と重なって女の人が見えた。

「―――…名前ちゃん、志保と仲良くしてあげてね…―――」

「…先生。」
違う話に夢中の子供の声に掻き消されそうな小さな声でつぶやいた言葉に反応したのはカウンターの向こうにいる安室透だった。
「なぁ灰原、あの人見たことあるか?」
「いいえ、知らないわ。」
やけに大人びた二人がそんな会話をしていたことは気付かないふりをした。