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「君から会いたいと言われるとは、驚いたよ。」
言葉とは裏腹に全く驚いた様子もなく貼りつけた笑顔の目の前の男、沖矢昴。あの一件から数日後赤井秀一、もとい沖矢昴にコナンくん経由で連絡を取り接触することになった。コナンくんには喧嘩はしないでね。と念を押されたが、この男の対応によっては一発殴ることくらいは許して欲しい。
「そういう物言いが気に食わないんだ。」
「さぁ、立ち話もなんですから入ってください。」
沖矢昴モードで工藤邸に案内された。リビングには紅茶が用意されている。
「さて、話しをしようか。」
変声機を切り深い翠をのぞかせた。
「まず、この女性について知ってることを教えてください。」
先日、本人に見つからないように撮った盗撮だが顔ははっきり見える。
「ほぉ、なぜ彼女のことを知っているのかな。」
「質問しているのはこっちだ。」
「そうだったな。彼女は名を苗字名前という。俺の従妹にあたる。」
は?驚きで一瞬時が止まった気がした。あまりにも簡単に、そしてこんな近くに血縁者がいるとは。
「それで、俺の質問にも答えてくれるのかな?」
「…彼女はクレオパトラというコードネームで組織に在籍しています。」
今度は赤井が動きを止める番だった。はっと意識を取り戻し鋭い眼光を向けられる。
「どういうことだ!」
珍しく赤井が声を荒げた。
「わかりません。だからあなたを訪ねたんです。」
「俺も写真でしか見たことがないし詳しいことは知らないんだ。母の二人目の妹がこの子の母親だ。しかし、彼女はもう成人しているはず…。」
「…組織の、実験の被験者になったそうです。」
ベルモットからこの話を聞いた時は頭に血が上っておかしくなってしまいそうだった。物にあたったことがない僕でさえテーブルに思い切り拳を叩きつけていた。
「もう一度言ってくれ、なんだって?」
冷静に言っているように聞こえるがこちらを見る目は狩人のそれだ、瞳孔が開いてしまっている。ごめんコナンくん、一発以上になってしまうかも。
「…っ、だから実験…」
「どうしてだ!!!なぜ彼女が…!」
「僕に言われても困ります。僕だって許せないんだ。」
胸倉を掴まれゼロ距離で怒号が飛びかかる。怒りに震える拳を赤井の胸に押しつけ反論を続ける。
「こんなことあっていいわけがない。でも彼女は自分から志願したそうです。ベルモットも止めることが出来なかったと。」
そんな、と僕から手を離しソファに力なく座り込んだ。
「俺は会ったことがなかったが、明美が頼むと言ってきたんだ。しかしイギリスで生活をしていると連絡が来て安心していたんだ。」
「彼女は八歳頃日本に来たと言っていました。そしてラムの一存でコードネームを得たと。」
そうか、そうか。と頭を抱えたまま返事をしてきた。赤井でも取り乱すことがあるんだなと彼よりも冷静になった頭で考えていた。
「それで、君は彼女をどうするつもりだ。」
「公安の協力者として保護します。」
「そううまくいくか。」
「うまくいかせるんですよ。僕とお前で。」
お前が死を偽装してここで生きているんだ、出来ないはずがない。