28※暴力表現有り

痛い、苦しい。顔、肩、腕、脇腹、足。体のあちこちに心臓があるみたいだ。ドクドクと脈を打って熱い。生きているのか死んでしまったのかさえ分からない真っ暗な世界。




「なぁ、バーボン。お前は任された任務は完遂するんじゃなかったのか。」
冷え切った目に映る自分と向けられた銃口、こうなることはわかっていた。わかっていて彼女をこの世界から連れ去ったのだ。
「そうですね。悔しいですが今回は失敗してしまったようです。しかしあれは不可抗力です。」
「…一々癪に障る野郎だ。」
発砲音と同時に焼けつくような痛みが肩に走った。反射的に肩を押さえたかったが拘束されていてそうもいかない。熱い血が流れるのを感じた。
「僕を消すつもりですか?」
「俺はそうは思わないが、お前は組織に必要な人間なんだと。…だからこれは私怨だ。」
言い終わると間髪入れずに二発、至近距離での発砲が幸いし弾の体内残留は避けられたようだ。
「あの方もラムも今回の件はひどく御立腹だが、結局は死んでしまったもんは仕方ねぇ、とさ。諦めも早え。」
その言葉にどうしようもなく腹が立った。ラムのせいで彼女は数奇な人生を歩んでいるのに結局彼女もただの駒なのか、と。同時にやはりここから連れ出してよかったと心底思った。
私怨だと言ったこの男の痛みが理解出来てしまうが故に与えられる痛みにただ只管耐えるしかなかった。飛んでくる拳も、弾丸も避けようと思えば出来る。柱に繋がれた縄も解こうと思えばすぐだ。もっとも、反抗したが最後本当に消されてしまうかもしれないが。とりあえずここはやり返さず冷静に受け入れ反省をアピールすることがこの状況を終わらせる最善の方法だろう。
「お前ほどの男が付いていながらクレオをあんな目に遭わせやがって。何とか言ったらどうなんだ。」
よく喋るバーボンはここにはいない。彼が言うことに反論できないのだ。彼女は僕が護衛を終え一人になったところを何者かに襲われ家ごと消されたと伝えてある。彼女の使っていたPC類もデータを修復できないよう加工してもらったので犯人の手掛かりは何もない。その為、ジンは犯人ではなく僕を憎む他ないのだ。彼ならば血眼になって犯人を探しているのだろうが。
沈黙を決め込んでいたウォッカの顔が怒り、悲しみ、悔しさに染まり箍が外れたように拳が飛んできた。
「…ぐ、ぁ。」
口の中に鉄の味が広がる。拷問には慣れているはずだったがこの男達から伝わってくる感情も相まって今までで一番辛い時間のように感じられた。偽装ではあるが彼女を一人にし死なせてしまったことに何の弁明も出来ない。彼らにも人間らしい感情があったのかと、冷静に考える自分もいた。続く暴行の中で一度だけ謝罪を申し出たが火に油を注ぐ結果となってしまった。それもそうだ。
薄暗い倉庫の中でどれくらいの時間を過ごしたのだろう。突然重い扉が開き埠頭の明かりで顔は見えなかったがジンを止める人間が入ってきた。
「バーボン、よく耐えたわね。」
初めて感じた彼女のぬくもりと共に戸惑いを感じながら意識を手放した。