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重い瞼を開けるとそこはあの倉庫でも安室の部屋でもなかった。
「…どこ、だここ。」
思っていたよりも掠れたか細い声が自分から出たことに少し驚いたが次に来る痛みの方が壮絶で更に驚くこととなった。
「ふ、降谷さん。ここは私達の家だよ。」
いくら少女の体とはいえ負傷した体に重みが乗るとこの僕もさすがに痛い。大きな瞳に涙を溜め泣くのを我慢しているようだ。
「おはよう、名前。」
なぜかここに帰ってきてしまい、こんな姿を彼女にも見られてしまった。きっと自分を責め、傷ついた筈だ。たくさんの重荷を抱える彼女にこれ以上負荷を掛けたくない。努めて明るく振る舞う。
「降谷さん、三日も眠ったままだった。もう起きてくれないかと思った。」
努力むなしく溢れてしまった雫は僕の頬を濡らした。
「ごめん、心配掛けた。」
重い腕を上げ彼女の丸い頭を撫でる。変わらない温もり、もう一度ここに戻ってこられてよかった。
「降谷さん…!よかった、よかった。」
「何情けない顔をしているんだ。」
部屋の扉を開け入ってきたのは僕の部下、隈が酷い。心なしか彼も泣きそうだ。
「風見、ありがとう助かった。」
普段あまり伝えない感謝の意を正直に伝えると泣き出してしまった。そんな涙腺でよく公安が務まるな、なんて今回ばかりは言わないでおこう。
これで報復は受けた、少しの間は行動がし辛くなるだろうが反撃といこう。こちらには最強のクラッカーがいる。