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意外にもジンの予定はすぐに割れた。明日二十時、米花ホテルにて登丸議員との会食があるらしい。議員とも癒着しているとすると組織壊滅と芋蔓式に大物が多数検挙されるかもしれない。繋がり、証拠集めも同時に進めなければ。組織の思想を持つ者を野放しにしておけばいつ再構成されるかわからない。
ジンのPCには私が作成したルートキットの送り込みに成功した。メールにウイルスを添付しメールを開封した時点であの男のPCは私の物になった。同時に遠隔操作できるよう細工もした。これで電源が切られていても作業できる。こういうところは相変わらず詰めが甘くて助かる。
だがやはり腐っても現代人だ、持ち運びの出来ないPCよりも携帯端末の方をよく利用するだろう。
「どうにかして携帯に忍びこめないかな…。」
ルートキットを小型メモリーに保存し、携帯端末に挿入出来ればよいのだが問題がある。まずジンの携帯端末の機種が分からないので小型メモリーに対応しているか不明、次にそれをするには当人に接触し、携帯端末を一時拝借しなければならない点だ。彼がITに詳しくないという弱点があるとはいえ接近戦、画面越しでない彼に敵うはずもない。死んだとされる私が近付くのはリスクが大きすぎる。とはいえバーボンに頼るのもこんな状態だし癪に障る。それに完璧な情報を手に入れてから報告したい。
斯くなる上は…簡単にウイルスに掛ってくれたということはメールは頻繁に確認するのだろうし、直近で米花町に用事があるならば乗る可能性は高い。別人を装い彼に連絡を取った。



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私はシステムエンジニアをしている。貴方達が欲しているソフトの作製に尽力しよう。ついては三日後の午前二時、鳥谷大橋の下で待つ。
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簡単ではあるがきっと乗ってくる。私が実働部隊のフォロー以外に秘密裏で行っていた仕事だ。私がいなくなったことで作成は滞っているはず。

メッセージ送信後しばらくして了承を得ることが出来た。もちろん脅し文句も付いて来たので信用はしていないようだけど。
パソコンを手に入れたことで彼女とも連絡が取れる、連絡先は先に聞いてはいたがツールがなかったのだ。頼みたいことがある、とメッセージを送るとすぐにビデオ通話で返信が来た。
「調子はどう?」
「可もなく不可もなくかな。哀ちゃん、怒られるの承知で一生のお願いなんだけど、APTXの解毒剤の試作品、一錠用意してくれないかな。」
「いくらあなたの体が成長していなくても私とは違うのよ?飲んだところで適応しないわ。」
「じゃあ私の為に数時間で良いから大人の体になれる薬を作って欲しい。」
「…何に使うつもり?」
「ごめん、それは言えない。」
彼女は一層不機嫌さを前面に押し出してきた。今回ばかりは凄みに負けるわけにはいかない。目的完遂の為に。
「お願いします。志保さん。」
画面越しではあるが頭を下げた。彼女がどんな表情をしているかわからないがため息とともに何処かを漁る音がするのでもしかしたら希望が通ったのかもしれない。
「適応しない、と言ったけれど少し改良を加えれば不可能ではないわ。少し時間をちょうだい。」
「ありがとう、志保さん。本当に。」
三日後の約束には間に合うよう調合してくれるそうなので改めて丁寧にお礼を伝え通話を終えた。