09

「よう。クレオパトラ、奴隷とはうまくやってるか。」
煙草を咥えながらせせら笑うこの男は今日も機嫌が良いようだ。いつもは殺すだの死ねだの物騒なことしか言わないこの男が。カメラの画角の向こうで待ってくだせぇ、アニキなどと騒いでいる。またウォッカを困らせたのか。
「よく働いてくれているよ。関係はよーこー。」
「…良好か、それならいい。」
ジンは突っ込まない派か。

早速だが、とジンは今回の任務の詳細を話し始めた。
緑葉製薬が組織の求める薬剤の抽出データを持っておりかねてより交渉をしていたが命知らずというか勇ましいというか、研究機関でもない怪し過ぎる組織になんて、とデータの提出を拒否したそうだ。
「緑葉製薬のお偉方が素直に協力さえすればこんな面倒なことにはならなかったんだがな。」
しかもクラッキングを警戒してか会社のPC内にはデータはなくUSBに入れ石嶋という男が管理しているそうだ。
「バーボンはその男に接触しデータの窃取、クレオパトラはバーボンの後方支援をしてもらう。まぁ、バーボンがどうなろうが俺には関係のないことだがな。」
いい加減お前らの秘密主義にはうんざりなんだよ、と銀髪の男は続けた。
「わかったよ。ちゃんと助けるから、またねジン。」
返事を待たずに通信を切ってしまった。ジンに対してこんな扱いが出来る一般構成員は彼女だけだろう。
彼女は急に立ち上がりえっへん!という文字が浮かんで見えそうな立ち姿で話し始めた。当初は感じなかったが存外子供っぽい部分があるようだ。
「ということで、今回はチームプレー。たずなが重要になってくる!」
「それを言うなら絆ですよ。クレオパトラ。」
「…それ。」
僕が間違いを指摘した途端表情が曇った。しまった、ジンのように言わざるべきだったかと悔悟したがそれは徒爾に終わった。
「クレオパトラじゃなくて名前って呼んで。」
名前といえば午前中スーパーで名乗っていた名前だ、本名だったのか。
「わかりました。では名前さんとお呼びしますね。」
でも二人きりのときだけですよ、と口の前に人差し指を立てた。