若頭補佐と内緒話

僕たちの居住スペースである離れの裏、そこが赤井と密会するいつもの場所だ。何故わざわざそんなところで話をするのかというと、あまり良いとは言えない仲である自分達が二人きりで話をしているところを名前さんに見られでもしたら組に何かがあったのでは? と勘繰られる可能性があるからだ。

今回は念には念を入れ、朝が不得意な彼女が絶対に起きてこないこの時間を選んだ。
早朝四時半、朝が苦手なのは赤井もだったようで眉間に深いシワが刻まれている。


「烏合組が動き出しました」
「名前には言ったのか」
「言うわけないでしょう。何をしでかすか分からない」

そうだな、 と赤井は煙草を深く吸い込んだ。そして昇る煙を見ながら過去を思い出したようで顔を顰めた。
我ら工藤組は現組長の方針で穏健派となっているがそれでも敵対組織は存在する。現在話題にしている烏合組がそれだ。

「それで、これからどうするつもりなんだ」
「少し潜りたい。それから、連絡係は風見を使います」

躍起になっている自分とは違い何を考えているのかわからない赤井は短くなった煙草をギリギリまで吸い、地面に落した。

「君は、冷静でいられるのか」

ゆっくりと紡がれた質問に即答できなかった。うちの組――下っ端を除く。 で烏合組に憎しみを抱いていない者はほとんどいない。あの事件でお嬢はもちろん、俺も赤井も初めて人を殺したいと思った。何度頭の中であいつを嬲り殺したかわからない。

「今度こそ絶対に逃しません。必ず落とし前をつけさせる」

ベッドに横たわった宮野と息も絶え絶えに謝罪するヒロが頭に浮かんでは消える。
人は声を一番初めに忘れると言われているのに銀髪の男の不愉快な物言いは壊れたラジオのように頭の中で繰り返し正確に再生される。

ぶり返した怒りに爪が食い込む程拳を握りしめた。

「赤井はお嬢のことを頼みます。彼女は巻き込みたくない」
「あぁ」

若頭である名前さんに何も知らせずカタを付けたいなんてことが本来許されるはずもないことは百も承知だ。それでもこの男も自分と同じ思いを抱き、わがままを容易く受け入れた。

「この件は僕、赤井、新一くん、風見だけで必ずカタを付けますよ」
「あぁ」
「ちょっと、ちゃんと聞いてます?」
「あぁ」



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