私の実家、工藤組は四代続く最近の任侠業界では割と歴史のある暴力団だ。しかし暴力団なんていうのは名前だけで非合法なしのぎには全く手を出していない。
その証拠に私の父親である組長は小説家だし若頭のお兄ちゃんは探偵をやっている。
所謂みかじめ料の徴収なんかはやっているようだけど商店街のみなさんが勝手に納めてくれるだけで、脅したり力でねじ伏せたり…なんてことは一切ない。
組のモノが言うと信憑性に欠けるかもしれないが、うちの組は地域の皆様に愛されるとっても優しいヤクザ屋さんなのである。
とはいえ最近は急激に勢力を伸ばし始めた烏合組に容喙され組内に緊張感が走っていることは確かだ。そこら辺は他の任侠一家とそう変わりはない。
だからあの日零は抗争を恐れついて来たのかもしれない、と今更ながら思い至った。
まだ覚醒しきっていない頭で今日の朝食当番は赤井さんだったなあ、と思索しながら居間へと向かう。
「赤井―!またサニーサイドアップか。お前の当番のときはいつもそれだ!それにお嬢は最近固焼きにハマっているんだ。ちゃんと両面焼け」
「サニーサイドアップでも固焼きには出来るが」
「うるさい。妙に言い発音で言うな」
またやってる。飽きもせず毎日毎日…。逆に仲が良い気もしてきたが、なんでそこまで赤井さんにこだわって突っかかるのか。工藤家の七不思議のひとつだ。嘘だけど。
「おはよう。朝から元気だね」
「おはよう。名前、よく眠れたか?」
どう考えても似合わない赤いチェックのエプロンにフライ返し。朝からびしっと決まっている赤井さんにチークキスをもらう、いつものことだ。
「赤井、それはやめろといつも言っているだろう!」
これもいつものこと。留学でアメリカナイズされた赤井さんの行動に彼は納得がいかないようだ。はた、と名案を思いつく。
「零もおはよう」
先日のゴリラ発言への意趣返しでとびっきりの笑顔とチークキスをお見舞いした。
「…っ!」
来る、とファイティングポーズで言葉の応酬に備えていたが、多弁な彼が意外にも言葉を発することなく台所を飛び出していった。
「あまりからかってやるな」
「そんなに嫌だったかな?」
「はぁ、降谷くんも苦労するな」
「なにが?」
赤井さんは零に比べると口数の少ない、というか言葉が足りないタイプなので彼が何を意味しその発言をしたのか私にはわからなかった。