お嬢と苦労人

「風見―、ひま」

とある日私はこの堅物と私の良き相談相手のお兄さんと留守番をしていた。

「名前さん私は暇ではないんですよ。この間降谷さんが破壊した倉庫のカタを早急に付けなければいけないんです」

下部組織が御法度であるシャブを捌いているとネタがあがってきたので零がシメに行った件だ。何をどうすれば倉庫が潰れるのかわからない。私でももう少しうまくやる。

「零も人のこと言えないよね。自分の方がゴリラじゃん」
「っはは、確かにな。はいコーヒー」

ねちねちと日頃の鬱憤を吐き出すメガネくんと違い見た目から優しさが滲み出ている景光さん。

「ありがとう。景光さんも大変だね。このマジメくんと一緒に仕事なんて」

彼は元々零、赤井さんと一緒の若頭補佐だったが、抗争の折膝を悪くしてしまい全力で走ることが出来なくなった。
日常生活においては何の問題もないが有事の際疾走出来ないことは命に関わる。そんな理合もあり口惜しいが彼は事務局長補佐として裏方に回ることになった。

「風見さんのおかげで清廉潔白な組を保っていられるんだ、感謝しているよ」

臆面もなく人を褒めることが出来るところは彼の長所だ。懐こい笑顔も人を虜にさせる。そしてあの笑顔で諭されるとなぜかそれ以上反駁出来なくなってしまうのだ。それは彼の数多ある武器の一つでもある。

「またそうやって風見を使えなくするー。見て、湯気出てる」
「ごめんごめん、でも事実だから」

彼は普段零にこき使われていて褒められることに慣れていないのだ。ましてや相手は褒め殺しの名手諸伏景光である。彼に太刀打ちは到底できない。
忙しいと言っていたのに身内の真っ直ぐな賛辞の言葉に動けなくなってしまった男がそこにはいた。


「(これは今日も零にどやされるな)」



top