お嬢と夏祭り1

「赤井さーん、入るよー」
「あぁ」

離れの二階の一室が赤井さんが普段生活する部屋になっている。返事を待ってから扉を開けると彼は出窓に肘をつき物憂げにニコチンを摂取していた。

「これはこれは。随分風情のある格好をしているな」
「いい柄でしょ?有希子さんに見繕ってもらったの」

今日はうちのシマで夏祭りが開催される。幼い頃は家族で祭りを楽しんでいたが段々と会場に足を運ばなくなりここ数年は裏方に徹していた。

「フルーツ飴とやらが流行っているって聞いて久しぶりに行きたくなっちゃった!」
「ちょうど俺もイカ焼きが食べたいと思っていたんだ」

みなまで言わずとも願いを叶えてくれる彼に私はいつも甘えてしまう。

「名前がそんなチャーミングな格好をしているんだ。横に立つには君に倣わなければな」

少し待っていてくれ、と笑みを向けられたので心が躍る。足取り軽く居間へ向かうとお茶をしている人がいた。

「あら、素敵じゃない。名前」
「とっても良く似合っているよ」

大きな一枚板のテーブルに集う二人は本部長のジェイムズと本部長補佐のジョディだった。

「色白で背の高い貴女だからこそ似合う浴衣ね」

紺色に手のひら大の菖蒲の花があしらわれた浴衣は有希子さんが一目惚れした一枚だ。

「二人ともありがとう。ジョディもきっと似合うから今度一緒に着よう」
「それはやめた方がいい。浮かれた観光客にしか見えんからな」

酷い物言いと共に現れたのは待ち人赤井さんだ。息を飲む程の壮美さに思わず見惚れてしまった。藍鉄色の浴衣、白地に黒い太さの違うラインの角帯。手には煙管が恰も普段からそこにあったように存在していた。

「あら、失礼ね。あなただってその姿はどう見てもカタギじゃないわ」

プイっと顔を背けるジョディにそれを宥めるジェイムズ、喧嘩を吹っ掛けた本人は我関せずの姿勢で煙を吹かしていた。

「赤井さん。とっても似合っています」
「何故突然敬語なんだ」
「近寄り難い程に美しくてですね…」

なんだか隣を歩くのが不安になってきた。

「そう気を揉むな。俺には君の方が近寄り難く可憐だと思うよ」

そう言うと赤井さんは自らの袂に手を入れ何かを取り出した。

「簪?いつ、なんで?」
「待たせてしまったがさっき購入してきた。よく似合う」

赤井さんは私のまとめた髪にその簪を挿してくれた。ぽかぽかと心が温かくなり彼に抱きつき顔を埋める。

「ありがとう。大好き」
「俺もだ」

額に口付けを一度頂く。

「ちょっと、いちゃつくなら余所でやってくれる?」
「いちゃついてなんかいないよ!赤井さんは私の大好きなお兄ちゃんなの」
「俺ももう一人の妹のように思っている。それに名前は好きな奴がいるからな」
「そういえばそうだったわね」
「私は聞いていないんだが」
「ジェイムズ知らないの?降谷よ、降谷」
「ちょ、ちょっと待って。何を勝手に…」
「あら、違うの?」
「いや、違わないけど…」

私を置き去りにして話が進んでしまった。なぜジョディはこんなことを知っているのか。

「俺は誰とは言っていないぞ」
「教えてもらわなくても分かるわ。貴女わかりやすいもの」

ここにきて衝撃の新事実の発覚だ。

「私ってわかりやすいの?」
「あぁ、とても」
「じゃあ、零にもばれてるかな?」
「いや、彼も名前に負けず劣らず鈍感だからな」
「そ、そっか」

嬉しいような悲しいような…。


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