お嬢と夏祭り2

一悶着あったがジョディとジェイムズに口止め料として焼きそばの購入を約束し家を出た。カラコロと鳴る下駄の音と太鼓の音色が趣深い。

中学生と思しき男女、家族連れ、浴衣の二人組、老夫婦様々な人間が祭りの会場に集まっていた。私達が守っている人達、どうかこのまま悪意に晒されることなく天寿を全うしてほしい。

「まずはどこから攻めようか」
「フルーツ飴!楽しみは先に味わいたいの」
「なるほど」

赤井さんと肩を並べ目標の店を探す。通りにはバラエティに富んだ店が軒を連ねる。

「あ、焼き鳥。…ビール、からあげもある!」

普段あまり口にすることが出来ない魅惑のおつまみに一層テンションが上がった。

「随分とオヤジくさいものに惹かれているな」
「お祭りにビールって風情があるじゃない?」
「では、目標を達成したら一杯やろうか」
「賛成」




「名前さん、何故ここに」
「フルーツ飴のお店ってポアロが出してたの?」

ポアロは零がたまにアルバイトをしている喫茶店だ。組の人間も贔屓にしている。出店することは事前に報告を受けていたが内容までは目を通していなかった。

「梓ちゃん、謀ったね」

元々、フルーツ飴のことを教えてくれたのは目の前にいるこの女性、梓だった。

零が祭りの手伝いをするということも知ってはいたが詳細は聞いていなかった。きっと彼女はフルーツ飴のことを教えれば私が祭りに来るだろうと踏み、なおかつ零に手伝わせることで鉢合わせさせようと考えたのだろう。

彼女は私と零をくっつけようと躍起になっている節がある。

「えへ、名前ちゃんを驚かせたくって。それにしても浴衣とーっても似合ってる!」

彼女のこの笑顔に私は弱い。全てを許してしまう。

「ありがとう。ところで、零は何かないの?」

第一声から黙ったまま立ち竦む彼に声を掛ける。平然としたつもりだが内心はドキドキだ。

「馬子にも衣装、と言いたいところですが本当によくお似合いです。菖蒲の花も貴女を体現しているかのようだ」

普段の零なら七五三ですかとか鬼瓦にも化粧ですね、とか小憎たらしいことを言うだろうに意外にもストレートな讃美に驚きを隠せない。

「れ、零も白Tにねじり鉢巻きロールアップジーンズなんて普段見られないラフな格好、すごいいい。かっこいい」

どもった上に早口で捲し立ててしまった。何とも言えぬ空気を壊してくれたのは赤井さんだった。

「梓さん、だったかな?おすすめは?」
「私のおすすめはぶどうです!」
「ではそれとイチゴを一本ずつ頂こう」
「はい、ありがとうございます!」

ぼうっと二人の会話を聞きながら恥ずかしさから虚空を見ていると唇に生ぬるい物が添えられた。

「ほら、楽しみにしていただろう」

私の口にあったのは串に刺さったぶどう飴だった。唇を舐めるとほんのり甘い味が広がる。

「イチゴも買った、シェアというやつをするんだろう?」
「さすがよくわかってる!ありがとう赤井さん」

期待を裏切らぬ赤井さんと美味しさに先程のきまずさも忘れ、念願だった飴の味を堪能した。
苦虫を噛んだような顔のままの零と楽しそうな梓とのもとを離れ会場内を散策する。約束通りビールもジャンクな味も二人で十分に分かち合った。

「すごい楽しんじゃった」
「この地を盛り上げるのも俺たちの仕事だからな。たまにはこういうのもいい」


花火は上がらないので線香花火を用意して赤井さんと勝負がてら夏の風物詩を存分に味わい一日を終えた。


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