ローズミスト

私達四人は激務から解放され高校生らしいひとときを過ごしていた。

「暇ね」
「そうだね。恐ろしいほどに」

共用スペースのソファでくつろぐ私と野薔薇は束の間のいとまを満喫していた。男二人は野薔薇に命じられ学校下のコンビニまで買い出しに行っている。

「前から聞きたかったんだけど名前、虎杖のこと好きでしょ」
「〜〜!…ッなんで!?」

平然と言ってのけた野薔薇は天井を見るのをやめニヤついた顔で隣に座りなおした。知られても何ら問題はないのだが私の心臓は野薔薇の発言により暴れ回っていた。

「私に言わせれば名前、結構分かりやすいと思うわ」

それで、どこが好きなの?言わないとくすぐるわよ、と手をわしわし動かしながら野薔薇は至極楽しそうに尋問を始めた。

もったいぶるつもりはない、むしろ一度はこういった話を女友達としてみたかった。私は姿勢を正して悠仁の姿を思い浮かべた。

「悠仁は、優しいの。他人の悲しみ、喜びをまるで自分のことのように感じることが出来る。共感力は得たくても得られないからね」

「ふーん、ま優しいってのは認めざるを得ないわね」

悠仁は誰にでも優しい。だから私だけというわけにはいかないのだ、それを享受するのは。
友達の野薔薇が大好きな悠仁を褒めてくれたことは本当に嬉しいのに少しだけ、ほんの少しだけ胸がチクリと痛んだ。私は嫌な女だ。

「何か勘違いしてるようだけど私はずぇぇったい好きにならないから。それで、告白はしないの?」
「悠仁のタイプ、ジェニファーローレンスだよ?私にはケツもたっぱも胸もない…」

自分で言っておいてあまりにもタイプから遠い存在という現実に傷ついた。私は特筆事項のない一般人だ。

「ケツとか言うな!…まあでも名前はぺらっぺらよね」
「野薔薇…胸揉ませて…巨乳の恩恵を…」
「やめろー!!」

わざとらしくおどろおどろしい声と喋り方で野薔薇に迫りじゃれ合うと先程まで感じていた少しの痛みは消えた。


「なにやってんの?」
「外まで聞えてたぞ」

両手に戦利品を持った二人の帰還だ。おかえりーと二人で声を掛けて手をあげた。そういえば共用スペースで映画を見ようと言ったのは誰だったか。

「悠仁、私のアップルティーちょうだい」
「名前これ好きだったよな」

色々なメーカーが製造しているが悠仁の買ってきたそれが一番好きだった。普通忘れてしまうそんな細かいことまで覚えていてくれたことがあまりにも嬉しく何かが湧きあがる感覚があった。

二人が買ってきたものの中にはリクエストしたもの以外に酒の肴のようなものも混ざっていた。このセンスは悠仁チョイスだ、おじいさんの影響が表れていてなんだか心が温かくなった。

映画を見るにあたって一悶着あったが最終的にアメリカのアクション映画に落ち着いた。一人では選ぶことのない映画は純粋に楽しみだった。

反対していた野薔薇も、興味のなさそうだった恵も最終的には食い入るように画面を見つめていた。
かく言う私も体術の参考にしようと見始めたが内容が思っていた以上に面白く、続編希望! と初めて思った。


映画が終わると感想や考察の発表会が始まった。そしてそれは野薔薇が(不要な)気を利かせてくれたので悠仁の隣で行われている。
東京に来る直前は離れる寂しさと悲しさでなりを潜めていたが私の悠仁に対する恋心は思春期男子のそれだ。

そんなに近付いているわけでもないのに感じてしまう、悠仁のぬくもりを…。私は鼻息荒く、ギラギラした目を向けてしまっているのではないかと不安になるほどに緊張していた。

悠仁は恵との会話にのめりこんでいて気付いていないようだが野薔薇はまりもっこりのようににやついた目でこちらを見ていた。




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