ローズドラジェ

今日は一年全員が任務でそれぞれ別の場所に赴いている。久しぶりの単独任務は以前より名前に寂しさを感じさせた。
今回は制服が無事且つ高専からそう遠くない場所への派遣だったので自力で帰宅するべく街中を歩いていた。

野薔薇と一緒だったら買い物とか夜ご飯食べに行けたりしたのになあ…一人だとどうも行く気になれない、と心の中でつぶやいた。


「あの、代々木公園ってどこですか?」

イマドキの若者、といった印象の男二人組に声を掛けられた。急に肩を叩かれ不信感を抱いたが困っているなら仕方がないと自分を納得させた。

「すいません、私東京来たばかりなのでわからないです」

お力になれずすみません、とその場を去ろうとしたが二人組の内の一人に強い力で手首を掴まれた。咄嗟に足が出そうであったがここは街中で名前は高専の制服を着ているのでぐっと我慢した。

「離してください」
「お姉さん、それコスプレ?かわいいね」

不快であることを伝えるが話を全く聞かない男はさらに強く掴み路地裏に引きこもうとしてくる。振り払おうにも男女の力の差がありそれは叶わない。どうしたものかと頭を悩ませながら抵抗を続けた。

いっそのこと路地裏に連れ込まれてから倒したら人目につかないし、気兼ねなく暴れられていいのでは? とも考えたが、それは相手も同じで何をされるかわかったものじゃない。


「おにいさんたちこいつの連れ?…じゃないよね?」

聞き馴染みのある声の持ち主に肩を抱き寄せられ名前は心から安堵した。と同時に悠仁の発する威圧感にたじろいだ。

「俺らは道聞いてただけだ…っ、」

名前がいくら拒否しても消えようとしなかった男達は悠仁の放ったそれに慄き、そそくさとその場を去った。

「なんなのあいつら」


悠仁はくるりと半身を翻し、肩を掴んだまま名前と向き合った。

「名前大丈夫だった?なんかされてない?」
「う、ん。大丈夫。ちょっと掴まれただけ…」

いざとなれば追い払うことは簡単だと思っていた。しかし完全に掴まれてしまえば名前の体術や力でどうにかなるものではなかった。

改めて大丈夫かと尋ねられ咄嗟に平気だと言ってしまったが自分の意識していないところで恐怖を感じていたらしい。手が完全に冷え切り震えていた。

「あっ、赤くなってんじゃん。あいつら…」
「これくらい何ともないって、すぐ引くよ」

今にも追いかけて手を出してしまいそうな悠仁に平気だと何度も言いどうにか鎮めることに成功した。

「一人で怖かっただろ?手震えてる」

悠仁のごつごつした大きな手で包みこまれたおかげで震えは止まりじんわりと体温が戻ってきた。

「悠仁ありがとう、助かったよ。そういえばなんでここに?」

今日は千葉の方に行ったと出発前偶然会った恵に聞いたのだ、戻りは明日の昼だということも。

「早く終わったから名前とメシ行こうと思って」
「でもよくここにいるって分かったね」
「うーん、勘かな」

全く答えになっていないのだが呪いが視認でき、呪術が使える人間が存在するのだから第六感というものもあるのだろうと名前は自己完結した。

恐怖感が拭えてきたところで名前がじゃあご飯行こうか、 と声を掛けるとふいに通行人の死角になる場所に引きこまれた。

「…本当によかった」
「悠仁、ありがと」

抱きすくめられた身体は悠仁の中にすっぽりと収まって、先程より大きな安心感を与えた。名前は少しだけ早い悠仁の鼓動を感じて行き場のなかった手を背にまわし、恥も外聞も殴り捨てて互いの存在を確かめ合った。



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