オールドライラック

嫌な予感というものは往々にして当たるものだ。たかだか十数年の人生ではあるが何度もそれを体感してきた。


健康体だけが取り柄の私が数年ぶりに発熱し、任務を降りることになった。硝子さん曰く環境の変化+免疫が低下していたのだろうとのことだった。

つい最近まで重症患者であった私の復帰戦であったのにタイミングの悪さに歯噛みするしかない。

それに今回の任務は一年のみの派遣、みんなの力を信用していないわけではないが本当に大丈夫なのだろうか。
私が行ったところで、という気持ちもあるけどこの胸騒ぎは体調不良から来るものなのか、なんなのか。

「…っはぁ、辛い」

身体の節々が痛い。
目を閉じるとぐらぐらと身体が揺らいでいる感覚に陥る。物心ついてからは全てのエピソードを言える位には体調を崩した回数は少ないと思う。それ故に辛さが段違いだ。

術師として日本中を飛び回る母は私が体調を崩しても側にいてくれたことはほとんどない。でもそれをうらんだことはなく、そのおかげで悠仁が治るまで側にいてくれたので災い転じて福となったいい例だったと思う。

甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた悠仁。
「風邪には生姜がいいってじぃちゃんが言ってた」と言って持ってきた土鍋の中にはおかゆに浸った丸ごとの生姜。

最初こそ食べられたものではなかったが回数を重ねるごとに悠仁特製生姜粥は曖昧になった味覚をもうならせるものになっていた。

悠仁の作ったおかゆが食べたい。身体は熱いの寒さを感じる。今までみたいに悠仁に手を握って欲しい。悠仁、悠仁、悠仁…。
笑ってしまうほどに頭の中は悠仁でいっぱいだった。

早く帰って来て、どうか無事で…。



硝子さんが処方してくれた薬が良く効いたのかいつの間にか眠っていて、目を覚ますと身体は軽くなっていた。

「野薔薇?」

ベッドサイドの椅子に座って眠っている野薔薇の頭には包帯が巻かれていて、先般の任務が一筋縄でいかなかったことを物語っていた。
それでもここにいるということは嫌な予感は久々に外れたんだ、とほっとしたが良く見ると心なしか両目尻が赤くなっている。

野薔薇が泣いたのだろうか、先程までの安堵が暗い不安に飲み込まれていく。嫌な予感がする、心臓が早鐘を打ち始めいてもたってもいられず野薔薇の腕に触れた。

「野薔薇、野薔薇…」

疲れて眠っているところを起こすのは忍びなかったが慮る余裕すらなかった。目を閉じたままの野薔薇の体を揺さぶるとツヤのある髪と同じ錆色がゆっくりと顕現した。

私をその瞳に映すとみるみる顔が歪み大粒の雫がこぼれ落ちた。

「…名前っ、ごめん、虎杖が…」

言葉を詰まらせる彼女の言いたいことは回らない頭でもすぐに分かった。――悠仁はもうこの世にいないのだと。



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