ワインレッド

少年院での一件の後、名前は感情を抑制しているようだった。涙を見せたのは俺の姿を見たあの日一回きりでその後は怖いくらいに”普通”だった。任務以外は。


入学後しばらくは二人しかいない一年ということで共闘が多かったし演習でも動きを参考にするためよく見ていた。
だからこそわかる。今の名前は普通ではない。


二本の鋭利な触手を無遠慮にしならせる呪霊に対し名前は自らのダメージをものともせず特攻していく。

鋭いそれが名前の足を掠めバタンと大きな音を立てて転倒した。
とどめをさそうとする呪霊に対し名前は倒れたまま攻撃も防御もしようとしない。声を掛けても応答がない。

「鵺!」

間一髪で名前を救出し少し離れた所に座らせた。名前は作戦を聞いていなかったのか制止も聞かず飛びこんでいったが今回名前は後方支援がメインだった。この程度、このタイプの呪霊ならば一人で祓える。

一番面倒な触手は早々に切り落とし復元される前に攻撃を与え続けると紫色の液体を飛び散らせて消えた。

頬に飛び散ったそれを拭おうともせず俯いたままの名前の元へ近寄った。

「お前なんであんなことをした」

魂が抜けてしまったようにピクりともせず地面を見つめていた名前は俺の声で顔を上げ、力なく笑った。

「ごめん、ごめん。早く片付けたくて焦っちゃった」


そう言って立ち上がろうとした名前は自らが負った怪我の存在を忘れていたようで眉間にしわを寄せ座り込んだ。

「…恵ごめん、肩貸してくれない?」

名前の反転術式は使用に様々な制約があると以前の怪我の際に聞いた。文句の一つでも言いたかったが申し訳なさそうにする名前を黙って抱きあげた。

「あの、これは恥ずかしいので…」
「悪い。おぶる」

もごもごと何かを言っていた名前は諦めたようで大人しく背に乗った。包帯代わりにしたシャツからは血が滲んでいる。一度礼を言って名前は寝息を立て始めた。



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