名前は教室にあまり姿を現さなくなった。
それと同時に季節柄か、一年に任される仕事は軽いものばかりで二人は鍛錬に時間が取れるようになっていた。
補助監督、伊地知の話によると名前は毎日任務に明け暮れているらしい。ぼろぼろになった彼女を迎えに行く度に寿命が縮まりそうだと冷や汗をかいていた。
「伏黒!」
必死の形相の野薔薇が教室に飛び込んできたかと思うと、早く来い! と手を引かれ恵は訳も分からずついて行くだけだった。
「なんなんだ、一体!」
「いいから黙ってついてこい!」
何事かと思えば到着したのは治療室で、度々掛け込むそこには名前が横たわっていた。
「今は鎮静剤を打って眠っているよ」
「無事なんですか?」
「無事、だな。一応」
今や高専一の常連だよ、と家入は呆れがちに肩をすくめた。名前は自らの術式でどうにもできない怪我を何度もしているらしい。
いくら注意しても聞かないから君達を呼んだんだ、 と硝子はこぼした。
名前の怪我が原因でここに呼び出されたのは二回目だが、今回も夥しい傷と包帯を見て野薔薇は顔を歪ませた。いつもの饒舌さは何処かに置いて来たようだ。
少しの沈黙の後意識を取り戻した名前の痛みに悶える声で落ち込んだ雰囲気は拭われた。
「名前!…あんたまで私の前からいなくならないで…」
安堵から目を潤ませる野薔薇とは反対に恵はふつふつとわき上がる怒りに手が震えていた。
「お前、死にたいのか」
思わず声を荒げた恵に名前はヘラリと力なく笑った。それがどうしようもなく不快に感じ、叱責を重ねようとする恵を野薔薇が止めた。
「私は、私の大切な人を守る為にここにいるの」
遠くを見ながら吐露した彼女の言う大切な人は虎杖のことだろうと二人は思った。
「虎杖がいないからお前は自分の命を粗末にするのか」
「粗末にしてるつもりはないよ。それに今度は間違えたくない、二人を守りたいの」
光のない瞳には執念の炎が燃えているようだった。握った白いシーツが赤く染まったところで硝子が口を挟んだ。
「名字、二人に来る任務も君が無理やり引き受けていたらしいな」
それを聞いて恵は合点がいった。季節柄呪いが発生しにくいのだろう、交流会前だから気を使ってくれているのだろうなどと考えていたが名前だけ忙しいというのはおかしいと思っていたのだ。
「名前が私達を大切に思ってくれているのは分かったわ。だったらわかるでしょ?私も名前が傷付いたら…いなくなったら悲しいの」
問題や違和感の正体を見抜こうとせず、謀らずも名前に助けられていたことを知り恵の心は行き場のない気持ちで埋め尽くされた。
「名前、お前は強い。でも俺たちだって弱くない。守られなくても簡単には死なない…だからもっと頼れ」
やっと思いが通じたのか謝罪と礼を繰り返しながら名前は止めどなく涙を流していた。
「ごめ、っごめん恵、野薔薇…っ」