中学校最高学年といえば高校受験。
担任教師を始めありとあらゆる大人が勉強、勉強とせっついてくる日々に悠仁は辟易していた。
そして今日は半日で学校が終わったためいつものように悠仁の家で二人は教科書を広げている。
しかし受験勉強をしているのは悠仁のみだ。
筆記試験は無く必要なのは能力だけの学校への入学が生まれたときから決まっている名前は悠仁と共に過ごす時間のため勉強に付き合っていた。
「なあ名前は高校どうすんの?」
「…合格したら報告するよ。悠仁は杉沢第三だっけ?」
「そう、俺あんま頭よくねぇし家から近い所がいい」
高校の話をすると名前の顔が曇るのを気にしていないわけではなかったが良くも悪くも明け透けな彼女が言わないことをしつこく問うのは野暮だと悠仁は考えた。
いつか言いたくなったら言ってくれるだろうと。
「そういえばさ、悠仁西中の虎って呼ばれてるの知ってた?」
「何それ!俺の通り名?二つ名的な?」
カッケー! と目を輝かせる悠仁を見て名前は胸をなでおろした。志望校の話をされたとき名前は何かで心臓をつつかれたような痛みを感じた。
ポーカーフェイスが上手くない名前はきっとそれが顔に出てしまっていたのだろう、彼女を見た悠仁が困惑したような目つきをしたからだ。
「今日泊まってく?」
「んー、今日は帰るよ」
悠仁の家はおじいさんとの二人暮らし。
名前の祖父母の家とは似ても似つかないがどこか懐かしさを感じさせるこの家が名前は好きで頻繁に寝泊しているのだ。
「名前、何かあったら言えよ?」
大きく暖かい手が名前の頭に触れる。野暮だとはわかっていたが言わずにはいられなかったのだ。
悠仁は能天気ように見えてその実察しが良く周りをよく見ている。そういうところが好き と名前は心の中で呟き、重かったそれが軽く暖かくなったのを感じた。
「ありがとう悠仁。期末が終わったら夏満喫しようね」
名前は自分の頭におかれた彼の手を握り微笑んだ。
□ □ □
虎杖家を出て名前は霊園へと足を運んだ。
目的は誰かの墓参りではなく母親が任されていた仕事の肩代わりである。
この用事がなければ今頃悠仁の作ったご飯を食べておじいちゃんにやいやい言われながら桃鉄やってたはずなのに。
「中学生に任務押しつけるってどうなの…」
名前の恨み言はふわり空間へと消えた。…と思ったのも束の間。
「この業界は人手不足が常だからね」
消えたはずの独り言に対しての返答があり、名前は誇張なく飛び上がった。着地後恐る恐る振り返るとやぁ、と軽薄そうなあいさつを投げ掛けられた。
「な、なん、なんでここに…」
「君のお母さんから頼まれてね」
へらへらと簡単な説明をするこの男は五条悟。呪術界最強を謳われる男、呪術界を担う男。
呪術師の家系である名前の家とも繋がりはあるが御三家には遠く及ばない家の娘がおいそれと会える人間ではない。
近くで見ると本当に顔が良い、見た目の良さを売る職業に就くべきではないかと名前はつくづく思った。
「あの、五条さんが祓ってくれるってこと…ですか?」
「いーや?僕は忙しいんだ、君の仕事だよ」
では何をしに来たのか、母に何を任されたのかと名前は首を傾げ怪訝な顔をした。それを察したのか男の口から説明がなされた。
「君は高専への入学が既に決まっているけれど能力の程度によっては早々に補助に回ってもらう。いわばこれは試験だ」
「そんなの聞いてないです。第一私は正式な任務をこなしたことがありません」
名前は日頃自らに寄ってくる低級の呪いを祓っているがそれは正式任務ではない。言うなれば独断行動だ。
もちろん幼少期から例えでなく血反吐をはきながら祖母の指導を受けていたので実力も確かではあるが師に認められる前に試験など受けられるはずがないのだ。
もし万が一落ちることがあれば名前は名字の姓を二度と名乗れなくなるだろう。
自信がない訳ではない、まして呪霊が怖い訳でもない。しかし現状の悪化を招く行動を起こせるほど名前の肝は座っていなかった。
祖母に常々 “慢心するな。実現不能なことを果断することは美徳ではない、只の愚行だ。” と言われていたからだ。
思考の牢獄に閉じ込められている名前を悟はサングラスを少しずらし眼光鋭く射すくめた。
「出来ないの?」
これまでのお気楽そうな口調と打って変わり刺すような声音と雰囲気に息を飲んだ。
時間にして数秒、多く見積もっても数十秒しか経過していないはずだが名前にとっては何十分にも感じられた。
「出来ます」
一族郎党呪術師の家系で生まれ育った。引き寄せ体質のせいで何度も面倒に巻き込まれてきた。
実力を試すいい機会だ、名前は決意を新たに頬を叩いた。
「そうこなくっちゃ」