カーマイン

恵、野薔薇は交流会の最終調整で演習場にいる。名前は硝子のところへ行くため一人で廊下を歩いていた。

「名前、ちょっときて」
「なんですか?」

悟に手招きをされ、半身が出ている部屋に行くとそこは応接室で見覚えのある一人の青年が鎮座していた。

名前は形を持たないはずの心をわし掴まれた感覚を初めて味わった。目の前が段々と暗くなりインテリアの大きな時計の音がやけに大きく聞えた。
あまりに大きな音に耳を塞ぐが意味をなさなかった。どんどん大きくなるそれは自分の心臓の音だと数瞬後やっと気が付いた。

「…悠仁?」
「よっ!名前、怪我してないか?」

振り返りひらりと手を上げた悠仁の第一声に名前は心底呆れた。けがの心配より先に言うことがあるだろう、 なにを呑気に笑っているのだ、と。

名前は拳を握り全力で振りかぶって彼を殴り付けた。右頬に入った拳のどごぉっという音と少し置いてからした悟の笑い声が不快でたまらなかった。

名前の頭の中は様々な思考で一杯だった。
生きていてよかったという安堵、喜び。何故もっと早く言ってくれなかったのだ、何故へらへら笑うのだという怒り。感情のキャパシティを越えて名前に襲いかかりボタボタと大粒の涙を床へ落とした。
それを拭うこともせず痛む手を力いっぱい握りしめ混乱する頭をどうにか落ちつけようとあがいた。

「名前ごめん。言えなかったんだ。本当にごめん」

起き上がった悠仁は痛む頬を押さえることもせず名前の前に跪き、ただ只管謝罪した。



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