シグナルレッド

悠仁は名前との距離感を計りかねていた。というのも感動の再会から名前に声を掛けようとしても逃げられてしまうからである。

名前の隣には常に誰かがいて悠仁の入る隙がない。野薔薇はもちろん恵も悠仁に対し圧を掛けていた。

悟に相談するも「しょうがないんじゃない?時間が解決するよ」とつまり何も出来ないと言われてしまった。
どうしたら今までのように話が出来るか頭を悩ませていると控えめなノックが三回、期待して扉を開けた。

「…伏黒」
「名前が俺の部屋で寝ちまったから運んでくれねぇか」
「お、おう」

悠仁は動揺を悟られぬよう恵の刺すような視線から目を逸らした。これまであの手この手で二人きりにさせないようにしていた張本人がわざわざ運んできたチャンスに悠仁は意欲を滾らせた。

と同時に名前の無防備さに少し腹立たしさも感じていた。――もちろん伏黒が同意なくそういった行為をするとは思っていないが。
それは俺だけに見せる顔であってほしい。そんなわがままな思いも抱いた。


恵のベッドで眠っていた名前を横抱きして部屋を出た。抱えた名前の目は赤く僅かにまつ毛が濡れていた。悠仁は名前の泣いたところをほとんど見たことがなかったため涙の理由に見当が付かなかった。

名前の部屋は仙台にいた頃と比べると随分簡素だと感じ、違和感を覚えた。
皺のないベッドに名前を横たえ丸い頭を撫で顔に掛った髪を避けた。身じろぎする名前に驚き手を引っ込め静かに床に座り込んだ。


「…め、ぐみ?」

どろり、どす黒い感情が顔を出し嫌悪の情で気分が悪くなった。もし目を覚ましたら少し話をしよう、赦してもらえるまで何度でも謝ろう、 そう思っていたが湧いて出た悪感情を隠す術も見つからず広くない部屋を全速力で走り飛び出した。



□ □ □



名前の寝ぼけた声を聞いてからの俺はおかしかった。

伏黒と名前が一緒にいると苛立ちと不快感で脳が正常に働かないのだ。相変わらず名前と話す機会はなく、いくら見つめても視線が合うことはなかった。――正直フラストレーションが溜まって今にも爆発してしまいそうだった。

こういうときは走って寝るに限る。起きたら気分も少しはマシになっているだろう。
共用スペースから自室へ向かっていると隣室から名前が出てきた。

「大丈夫か?」
「大丈夫、恵は心配性だね」

名前は体調が悪そうに見え、よろけた名前を伏黒が支えていた。

名前と伏黒は仲がいい、俺だってお似合いだって確かに思ったし口にも出した。なのに溢れ出る嫉妬という感情のコントロールが出来なかった。
カーっと頭に血が上って胃の辺りがむかむかする。気付いたときには名前の手を取って部屋に連れ込んでいた。

「悠仁!いた、痛いよ!」

逃げられないようにと言う思いが先行して名前の手首を強く掴み過ぎてしまったらしい。慌てて離した手首にはくっきりと俺の手形が付いていて名前は唇を噛み震わせていた。

「ごめん、ごめん名前。俺たち幼馴染だろ…前みたいにしたいんだ…」

回らない頭で必死に考え出た言葉がこれだ。名前の肩口に顔をうずめてしまったので表情は見えないがきっと困っているだろう。
少しの間のあと身体を押し返され名前は部屋を飛び出していった。

俺はその場に膝から頽れた。明確な拒絶に心がぽっきりと折れてしまった。
楽観的に考えすぎていた、伏黒と釘崎が受け入れてくれたから名前も、って勝手に思ってた。

「ごめん、名前」



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