一人でいるとどうにかなってしまいそうで、いるかもわからないのに誰かのそばにいたくて共用スペースに足を運んだ。
「おっす」
三人掛けのソファーの真ん中に座っていたのは釘崎で、その無遠慮な物言いが今は気を紛らすのにちょうどいいと思った。
釘崎は意外にも数分かそれ以上口を開かず、思っていた以上に居心地が悪かった。秒針の音だけが聞えるこのスペースでこちらから話を振るか、部屋に戻るか頭を抱えた。
「あんた、名前のなんなの?」
「…何って、幼馴染?」
自分の答えにもどかしさを感じた。改めて考えると俺と名前の繋がりは希薄だ。現に名前がいなくなったとき俺はあいつのことを知ることが出来なかった、その権利がなかった。
「幼馴染のあんたが名前の恋を邪魔する権利持ってんの?」
恋。
伏黒と名前が付きあっている可能性を無意識のうちに消していたと釘崎の言葉で思い至った。
「名前と伏黒って付き合ってんの?」
「知らないわよ」
「…俺嫌な奴だ。二人とも大切なのに話してるだけでムカムカすんだ」
俺の独白を黙って聞いていた釘崎は大きなため息をこれ見よがしに吐き呆れがちに口を開いた。
「今まで散々名前を傷付けてきたくせに自分への好意が別の人に向けられた途端それは許せないって?それは傲慢、わがままよ。……あんたまだわからないの?この私がここまで言っているのに」
――ただの幼馴染にそんな感情抱く?足りない頭でよく考えなさい答えは一つよ。
俺は本当に馬鹿だ。
釘崎の十分すぎる叱咤でやっとわかった、抱えていた鬱屈した気持ちの答えが。
「釘崎、さんきゅ今度なんか奢る!」
返答も聞かずに名前の部屋へと走った。釘崎のことだからザギンでシースーなんて言うかもしれないけど、立派寿司で我慢してもらおう。それくらいは俺でも奢れる。
高揚感と緊張と僅かな期待が新たに俺の心の中を占めていた。
全力で走ると共用スペースから名前の部屋まではあっという間だった。自室にいない可能性を考えていなかったが扉の下から明かりが漏れているので胸をなでおろした。
深呼吸を一回、上がった呼吸を整えてドアを叩くと少し間を開けてから名前が顔を覗かせた。また目尻が赤くなっている完全に俺のせいだ。
「名前、さっきは本当にごめん。少し話せないかな」
俺の必死さが伝わったのか名前は頷き招き入れてくれた。以前入ったときも思ったがラグも椅子もテーブルもない。促されるまま備え付けのベッドに二人腰掛けた。
自覚した勢いで来てしまい実は言うことを何も考えていない。元来俺は考えるということが苦手なのだ。
「あ、あのさ名前は伏黒と付き合ってるの?」
俯いていた名前はバッと効果音が付きそうなほど勢いよく顔を上げ俺を睨みつけた。瞬時に地雷を踏み抜いてしまったと気が付いた。
「ごめん違う俺が言いたかったのはそんなんじゃなくて…」
一分待って、 と言って時間をもらった。話がしたいと言って来たくせに内容も考えていないのかと名前は呆れているだろうか。頭をフル回転させてオーバーヒートするまで伝えたいことを考えまとめた。