ルビー

「まずは自己紹介から始めようか」

あまり良い印象のなかった五条悟が担任でしかも同級生はたった一人。おおっぴらに出来ない世界、普通の高校生活を満喫できるとは思ってはいなかったが名前は少しばかり落胆した。

校舎は入学前に一目見て苦手だと感じていた。祖父母の家に雰囲気が似ていたからだ。外観と同様に教室も古ぼったい。

「仙台から来ました、名字名前です」
「名前は恵と同じ二級術師だよ。心強いねー」
「伏黒恵」
「恵は式神が使えるよっ♪」
「よろしく、恵」
「馴れ馴れしいなお前」
「お前じゃない、名前」
「…名前」
「さっそく仲良くなったみたいだね。入学したばかりだけど素敵な任務が目白押しだから、気張ってね」

間に挟まる悟の一言にむかつきが溜まりもう少しで喧嘩になるところであったけど恵の冷静な判断で発火は防がれた。



□ □ □



五条悟の言葉通り私と恵は落ち着く暇もなく任務に明け暮れた。

「はぁーーーーー。さすがに疲れた」
「同感」

最初こそ敵意を感じたものの繰り返される共同任務のおかげで仲良くなれたと思っている。
恵は表情は豊かではないが聞けば自分の意見を言える人間なので関わりやすい。

「伊地知さん呼ぶね」

補助監督であり高専の先輩に連絡を取るためスマートフォンを二重ポケットのケースから取り出す。
厳重に保管していると咄嗟に取り出せず面倒ではあるが、接近戦が主の私はこれまで何度も破壊しているので修理費がバカにならないのだ。

「それ、変わったストラップだな」

恵の指すそれ、 はあの日悠仁に貰った第二ボタンだ。もう二度と会えないかもしれないのに未練がましく肌身離さず大切にしてしまっている。

「中学の制服のボタンなんだ、私のお守り」
「名前の大事な人からもらったんだな」
「おっ、察しがいいね。あ、伊地知さん?ピックアップお願いしますー最初のところからちょっと移動しちゃって…うん、そう。待ってまーす」

軽薄な答え方をした私に眉根を寄せた恵から視線を外して電話に集中した。これ以上はあまり突っ込まれたくない。

すぐに来てくれる旨を伝えると何も言わず恵は踵を返した。恵の察しの良さには感謝しかない。



呪霊を追いかけて随分と遠くまで来てしまったようだ。舗装された道が見えるまでかなり歩く羽目になった。

対呪霊のときには無事だった制服も木の枝に破られてしまった。最悪だ、まだ新しいのに。

高専の制服は要望があれば好きにカスタムしてくれる。中学のときはミニスカートを履きたいがために一年中タイツを履いていたので夏は地獄だった。

高専に入ってからは呪具を太ももに固定することにした。長めのプリーツスカートはタイツよりも数倍涼しい。悠仁が見たらスケバンみたいだと笑っただろうか。

「うら若き乙女になんて仕打ち…」
「…もう少しだ」

前を歩く恵は飛び出した枝を出来るだけなぎ払ってくれているようだ。分かりにくいし本人は頑なに認めようとしないが恵も優しい人間だと思う。

葉っぱや枝を踏む音で聞こえなかったと思いたいがきゅるるると私のお腹が可愛らしく鳴いた。
頭に浮かんだのは昼の番組で芸能人が食べていたラーメン。


「ね、帰りラーメン行かない?」
「制服破れてるんだろ?」

私の心配を先にするということは恵もきっとお腹が空いているんだろう。

ビリビリーー布の裂ける音が静寂の森に思いの外響いた。短刀で切ったにしてはいい方だと思う。

突然の生足に恵は慌てて背を向けていた。

「大丈夫だよ、膝上位にしかしてないから」
「お前なぁ。…それどうした」

居直した恵の目に映ったのは私の足にある大きな傷跡、完全に治癒しているが赤味はあり痛々しく見えると思う。

「私が呪術師になるって決めたときの傷、見た目が悪いから隠してたんだけど…」

優しい恵のことだからそんなことは思っていないだろうけど念のため変なもの見せてごめんねと陳謝した。
すると少しだけ眉間に皺を寄せ、変じゃないしお前が謝ることじゃないと言ってくれた。

「反転術式使えるんじゃないのか」
「当時は使い方がわからなかったの、四歳とかだし」

そうか、と俯く恵は傷の持ち主である私よりよっぽど悲しい雰囲気を背負っていた。

「恵も優しいね。この傷は名誉の負傷?女の勲章?そんな感じなの。もう完治してるしとにかく大丈夫だからそんな顔しないで?」

垂れ下がった口角を人差し指で上げると眉間にしわが寄った普段の恵の顔に戻った。

「待って、恵ほっぺぷにぷに…」

振り払われなかったことに嬉しくなり、両頬を指でつまむと両頬を喋ろうとする度に歪む表情がとても可愛くて夢中になった。


「…やむぇろ」
「ッはははっ!かわいい恵…!」




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