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「今日はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」

主将、顧問の先生同士が挨拶を交わし練習試合が始まった。

音駒の選手たちを迎えに行ったのは澤村さんと潔子さんだったから体育館に入ってきた赤い集団を二度見してしまった。
それにしても濃い。すごい髪形の人がキャプテンで、セッターは金髪プリン。モヒカンまでいる。
都会ってすごいな…と田舎者の恥ずかしい感想を心の中で呟いた。


コーチの意向でスタートのセッターは飛雄だ。私はスガさんの努力を知っている。それ故に、その選択は私にとって納得のいかないものであった。

「そんな顔すんなよ」
「…どんな顔ですか」
「こーんな顔」

コーチは指で目じりを釣り上げてこちらを見てきた。

「そんな顔してません」
「まあ、気持ちも分からなくはないが、せっかくの練習試合だからな」

コーチの言わんとしていることはもちろんわかってはいるが、理論で感情は抑制できない。プレーヤーじゃない私がこんなに悔しいのだからスガさんはもっとだろう。それなのに顔に出さずコート外で応援しているなんて大人だ。

悶々とした気持ちを抱きながら久しぶりに弟のプレーを間近で見た。身内の贔屓がなくとも飛雄は凄い。



△△



「烏野のマネージャーさん?」

二試合が終わり長めの休憩時間中、水道でボトルを洗っていると背後から声を掛けられた。他校の部員に話しかけられることなど滅多にないので慌てて手を止め振り返る。

「はい!なんでしょうか」

声を掛けてきたのは先程試合で活躍していた音駒のリベロ、夜久さん。
彼は東京から遠く離れたこの宮城に住んでいる私でも知っている、優秀なリベロだ。彼のプレーを真似しようと研究したことさえある。
そんな尊敬する方が私なんかに何の用だろうか。

「君、中学でリベロやってなかった?」

まさかまさか、私の存在を認知していただけていたなんて。食い気味に肯定すると夜久さんは素敵な笑顔を向けてくれた。

「そうだよな、中学最後の試合見てたからもしかしてって思ってさ」

少し照れたように頭を掻きながら言われた言葉に嬉しくなってつい本音がぽろぽろ零れ出た。

「私、夜久さんのプレー大好きです。しなやかで、いつでも安定していて…かっこいいです。今日生で見られて嬉しかったです!」
「いやー嬉しいこと言ってくれるね。これから練習試合も多くなるみたいだからよろしくね」
「はい!こちらこそ!」





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