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一年生に練習予定のプリントを配ってもらう為、しっかりしていそうな彼らのクラスを訪ねた。山口くんは職員室にいるのが見えたから、もう一人のしっかり者を召還しよう。

「あの、月島くんいるかな」

下級生の階に足を踏み入れるのは結構勇気がいる。なんで先輩がいるの、 という視線が刺さって挙動不審になってしまう。
前回の反省を踏まえて出入り口に一番近い子に呼んでもらった。しかしそれでも注目を浴びてしまっている気がする。

「なんですか、名前さん」

しばらくしてやってきた月島くんは改めて見ると…でかい。目の前に立たれるとズーンという効果音が聞こえてきそうなほどだ。私との身長差約四十センチ、首が痛い。

「これ、来月の練習予定改訂版。一年生に配っておいてくれるかな」
「…わかりました」
「あ、めんどくさいって思ったでしょ」

ポーカーフェイス、賢い月島くんも年相応の表情を見せるのだと少し安心した。

「ソンナコトナイデスヨー」
「月島くんも可愛いところあるんだね。手間かけさせて悪いけど、親睦を深める意味もあるから」
「親睦、深めたくないです」
「そんなこと言わずに、チームプレーのために、ね」

たかだか一歳しか変わらないのに先輩風を吹かせてしまった、 と少し反省した。
中身のない会話をしながら最初程見上げていないことに気付く。ふと月島くんの足元を見るとさりげなくマナー脚をしてくれていた。

「月島くんは優しいんだね」
「優しくないです」

彼は人をよく見ているから、私の触れて欲しくない部分には絶対踏み込んでこない。月島くんは弟のことを聞いてこないという確証のない自信がある。


「名前さんは黒尾さんと仲が良いんですか?」
「黒尾さんがよく話しかけてくるだけで良くも悪くもないかなぁ」

練習試合の日に夜久さんを通じて言葉を交わし、それからなぜかよく話しかけられるようになった。ついでに断る理由もなかったので連絡先も交換した。それが嫌というわけではないが他校の先輩、意図も分からず気を遣うので少しだけ困っていた。

それがどうかした? と聞き返してもいえなんでもありません。 とまた考えが読めない表情になってしまった。
こうなったら意地でも答えないと短い付き合いの中で学んだ。

じっくりと彼の顔を見て気付いたが、彼の見た目はイケメンの部類に入るだろう、でも何故か可愛くて仕方ない。きっと最初の注目は告白でもすると思われたんだ。ごめん月島くん。

頭の中の一人会議が終わったところで予鈴が鳴ったのでプリントの件を念押しし次の授業の教室に向かった。



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