なんか目が笑ってないんだけど

「冬子せんぱ〜い!」
「燕ちゃん、どうしたの?」
「あのぉ、ばれんたいんでーって知ってますか?」
「ばれんたいんでー?」

聴き馴染みの無い言葉に首を傾げ、過去の記憶を探ってみるが覚えがなかった。
知らないかなぁ、と言えば燕ちゃんは捲し立てるように教えてくれた。曰く、西洋か南蛮かの文化らしい。2月14日、お世話になっている人や恋仲の人などに甘味などをあげるそうだ。

「あの、それで、わたし、冬子先輩にあげてもいいですか…?」
「くれるの?嬉しいなぁ、ありがとう。私も何か用意するね。」
「えぇ!?わ、わわ私に!?あぁ、燕、その日は生きていられるのでしょうか…」
「え?何か忍務でもあるの?」
「冬子先輩……あぁ、なんて罪深きお方……この山茶花燕、誠心誠意込めて ぷれぜんと なるものを用意します。楽しみにしていてくだね!」
「うん?ありがとう、燕ちゃん。」

では!と授業へ向かうべく走っていく姿を見て佐和ちゃんにも贈ろうかな、と考えながら私も教室へと足を向けた。

「冬子さん、おはようございます。今から教室ですか?」
「山本シナ先生…!おはようございます。はい、教室へ向かいます。」
「実は、図書室で本を借りて来て欲しくて…朝からごめんなさいね。授業に遅れてもいいのでお願いできますか?」
「はい。分かりました。」

山本シナ先生から必要な本を書いた紙を受け取り図書室へ向かったが、何故か開いていなかった。松千代先生か中在家先輩を探した方が良いかと手当たり次第に探し始めた。

一方少し前、忍たまでは生徒達が学園長に呼び出され集合していた。今度は一体何を始める気なのかと皆が疑っている最中、学園長は現れた。

「コホン、え〜、知っているものもいるかもしれんが、2月14日はばれんたいんでーという日じゃ。そこで!忍たまの諸君にはばれんたいんでーに女子から何か贈ってもらうことを命ずる!一等多かった者には………ワシのブロマイドをやろう!」

懐から出したブロマイドを掲げるが、学園長の他に誰か映っていた。それにいち早く気が付いたのは一番前で話を聞いていた一年は組の猪名寺乱太郎だ。

「あれ、冬子せんぱいだ。」

そして人を探していた冬子は丁度集まりを見つけてしまった。木の影に隠れ、先生方の後ろから土井先生に声をかける。

『土井先生……。』
『冬子…!?どうしてここに?』
『あの、図書室へ教材を借りに行ったら開いていなくて……それで、あの、今、学園長先生は何の話を…』
『あれは……ばれんたいんでーの話だ。』

なるほど、と頷いた。ばれんたいんでー が何かを知っている私は、学園長先生と一年生が話している内容に耳を傾けた。しんべヱがどうして冬子先輩と学園長先生が一緒に写っているのかと聞いている。さて、何の話をしているのかね。

「ん?これはブロマイドがワシ一人ではいまいち物足りなかったので、近くを通った冬子を呼んで撮ったブロマイドじゃったかな。」
「それ、……冬子先輩にちゃんと許可取ってるんスか?」
「む?そうじゃなぁ。まぁ大丈夫じゃろ!」

何?何の許可?ブロマイドには覚えがある。私が体育委員会委員長の七松小平太先輩に無理矢理裏々山まで連れて行かれ、ボロボロになって帰ってきた時に撮ったやつだ。
それが何?何になるの?

『土井先生、学園長先生はあれを何に使うつもりなのですか?』
『ばれんたいん で一等贈り物を貰った忍たまへのあげるそうだ。』
「…………えっ!?」

思わず声を出してしまい、忍たま達が一斉に後ろを振り返った。怖すぎたので慌てて土井先生の後ろへ隠れたけど許して欲しい。
土井先生に、嫌だということを伝えれば、土井先生も山田先生も可哀想だと思ってくれたのか、学園長先生に抗議してくれた。そもそも ばれんたいんでー と忍者は関係ないのではないかと。

「ふむ、確かにそうじゃな……しかし!ワシが決めたのじゃ!やるったらやる!」
「しかし、そのブロマイドは本人が嫌がってますよ。学園長だけで撮り直したらどうですか。」
「ふむ…そうか……そうじゃ!一等の者にはワシとブロマイドに写ることを許可する!」
「えー学園長先生、男二人で撮ったブロマイド貰っても嬉しくないですよ〜。」
「きり丸の言うことも一理あるのぅ……。ではワシと冬子と一緒に3人で撮るのはどうじゃ?うむ、それがいい!決まりじゃ!」
「学園長先生…!あの、うぅ…」

決めないで!と声を上げようかと思ったが、忍たまの視線が怖すぎて土井先生の後ろへ再び隠れた。まぁ、これから撮るのだけなら、と溜息をついた所で学園長先生が解散と言う。
そうだ、松千代先生、と辺りを探したが先生は既におらず、仕方ないので中在家先輩に聞こうと土井先生の背後から顔を出すと七松先輩がいた。叫びそうになったってことは秘密だよ。

「な、七松先輩、どうかされましたか……。」
「冬子は ばれんたいん で誰かにやるのか?」
「はい…くのたま内で交換しようと思っていますが……」
「私にもくれ!」

嫌だと言ってやりたかった。だって、七松先輩よりお世話になっている人沢山いる。その人達を差し置いてなんで七松先輩にあげないといけないの…?でも断るってことは寿命が縮むってことで、私はたっぷり間を開けて頷いた。だって彼の目が笑ってないんだもん。怖すぎ。






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