あれ?わたし悪くないよね?

朝はなんだか落ち込んだ気分になってしまったが、町では『ばれんたいん特集』なるものをやっている所もあるらしく、小さくて手頃な値段の甘味が売っているそうだ。そう、私はそれを七松先輩にあげれば良いのでは…?
情報を聞き出すべく、話をしている女子に近付き耳を済ませる。

「でも、それって美味しくないって話よ?」
「えー!そうなの?まぁ、知らなかったことにしたら許してくれるんじゃない?」
「いやよ!彼には美味しいものを食べて欲しいじゃない……。」
「そう〜?でもでも、食べてみたいから行ってみない?噂が嘘だってこともあるし!」
「確かに……行ってみましょうか。私も甘味は食べたいし……。」

いいなぁ…私も食べたい。それに、私も場所を知りたい…。でも、突然話に入ったら怒られるよね。勇気を持って行くべきなのか。ええい!小心者め!いけ!声をかけるんだ!

「あ、あの…!」
「えっ?」
「どうしたの?」
「あの、その、………………………甘味を売っている場所を、良かったら教えて欲しくて…。」

結局一緒に行きたいとは言えず、私は場所だけ聞くことにした。別に1人でだって行けるもん…。
しかし、級友達はその話に飛びついてくれた。

「えー!もしかして、冬子ちゃんも誰かにあげるの?」
「うっ、うん……その予定…。」
「誰に誰にっ?忍たま?町の人?」
「えっと……七松先輩に…」
「七松小平太!?」
「流石冬子さん……凄い人と知り合いなのね…もしかして恋仲とか?」
「こ、恋仲……!?ちがう、違うよ…!?全く!そんなことには!絶対ならないから!」
「えー!いいじゃん!可能性を自分で潰しちゃだめだよ?」
「いえ……その可能性は全力で阻止したいです…。」
「待って、冬子さんは久々知兵助と仲がいいんじゃないの?」
「えー!じゃあじゃあ、これは巷で噂の三角関係ってやつなのでは!?おもしろーい!」

三角関係関係なんかではない、と発しようとする前に気付いてしまった。これはとっても がーるずとーく というやつに近いのでは……!?なんだか友達がいっぱいいるみたい!嬉しい…!
しかも、2人が誘ってくれたおかげで私は一緒に町へ行くことが出来た。売っていた甘味の味は微妙で美味しいわけでは無かったが、不味いわけでもなかった。
しかし甘味屋なだけあって、美味しいものも沢山あり、結局準備しなければいけない分と別に美味しいものを幾つか買った。これを渡せば問題ないだろう。いや、問題は学園長先生が言っていたブロマイドか……。
手土産片手に学園長先生の庵へ寄り、菓子折を差し出しつつ何となくブロマイドの話をはじめた。

「あの〜…ブロマイドの件なのですが……」
「そうじゃったな!2月15日に撮る予定じゃ。」
「いえ、あの、学園長先生と一緒に撮れるっていうのは分かりますが、どうして私なのでしょう……。」
「うむ。それは………」
「それは………?」
「特に意味はないのぅ!強いて言えばそこに冬子がおったからじゃな!恨むなら自分を恨め。」
「そこに、私がいたから……」

自分の運のなさに驚きつつ悲しみつつ恨みつつ……。いや、私悪くないんじゃない?これ罰則じゃないよね?そこでパッと閃いた。私に絞らなくてもいいのではないか?

「あの、学園長先生、私だけではなく相手を選べるようにするのは如何ですか?勿論相手が拒否すればその時は私が一緒に写りますので…きっとその方がみんなやる気になると思います!」
「そうかのぅ?まぁ、冬子がそう言うならそうしようかの。じゃが、結局ブロマイドに写ることになるのは冬子じゃと思うが。」
「ふふ、学園長先生実は私全然モテないんですよ〜だからきっと他の人が選ばれると思います。」
「ふむ、冬子もまだまだじゃな。」

さぁ、一緒に菓子を食べようと言われ、ヘムヘムと3人で食べた。学園長から見れば私もまだまだ半人前ということなのだろうか。これからも精進しなればいけないなと思いながら、自分の買った菓子折が思ったよりも美味しかったので満足した。

そのまま自室へと帰っていると久々知くんがくのたまと居るのが見えた。立ち止まって、直ぐに近寄り気配を消す。


「あの、きっと当日は久々知くんたくさん貰って大変だと思うから先に……受け取ってださい。」
「………あぁ、嬉しいよ。ありがとう。」
「えっ!は、はい……良かったです…!」

なんと、あの久々知くんが微笑んで甘味を受け取ったのだ。しかも、嬉しい、ありがとうって……あの子のことを慕っているとか…?
混乱しているうちに二人は分かれてしまったが、私は一人その場に取り残されていた。久々知くんがもしもあの子を慕っているならさっき町で買った限定の美味しいお豆腐はあげられない。そもそももう話しかけない方が良いのでは?意中の女の子が居るのに他の女の子から会う度話しかけられるのは迷惑なんじゃない?今までもそう思っていたのかな…。お豆腐喜んでくれると思ってたのに…。
なんとなく落ち込んでいると、誰かが気配を消してやって来た。パッと顔をあげると、いたのは不破くんだ。

「不破くん……どうしたの?」
「冬子ちゃんこそこんな所でどうしたの?」
「えっと、ちょっと隠れてて…でももう居なくなったからいいの!」
「隠れる…?誰かいたの?」
「うん……その、ばれんたいん の甘味を貰っている人がいて……隠れた方が良いかなと思って…」
「あぁ、ばれんたいんでー、ね。」
「なんだか忍たまは学園長先生の突然の思いつきで大変みたいだね…。強制参加になるのかな?」
「そうみたいだね。…………でも、困ったことに僕貰える気がしなくて…。」
「そうなの?くのたまって忍たまに比べると少ないもんね…………。」

んんん、駄目だこれ私があげるって言った方がいいのかな…?でも、私から貰って嬉しいのか…。うーん、私を慕ってるって言ってくれたこともあるし…いや!いつまでも待たせている私を今も慕ってるなんて、ある?まだ返事はしてないんだけどさ……!

「あの、不破くんが良ければなんだけど、えっと……」

ばれんたいん渡しても良いですか?って聞くのは変かな……良かったらあげようか?は上からすぎるし……ここはさりげなく好きな甘味を聞いて察してもらうとか?でも不破くん迷いそうだな。
私が悩み出した所で不破くんがくすくすと笑い出したので首を傾げた。

「ふふ、ごめんね。でも僕みたいに眠っちゃいそうで。」
「えっ!そんなに悩んでたかな…?」
「うん、悩ましちゃってごめんね。冬子ちゃんさえ良ければなんだけど、ばれんたいん、冬子ちゃんから欲しいな。」
「…!勿論!不破くん好きな甘味ある?」
「嫌いなもの無いから大丈夫。冬子ちゃんがくれるものなら何でもいいよ。」

ふわふわと笑うのが本当によく似合っている。なんだか此方までふわふわしそうだ。
何にしようかなぁ悩んでいる最中にふと思い出した。
鉢屋くんにバレなければ良いけど……等と考えたからか、その後直ぐに彼によって呼び止められた。






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