09
たまたま?わざと?
右を見て左を見て、また右を見た。
居ない。
これはあれだ……迷子になったんだ。
どうしよう。心配してるかな……。でも参拝客で人が溢れているから全く分からない。もう帰ってしまおうかと考えてしまうほどだ。
丁度、近くの椅子が空いた為、私はそこに腰をおろした。行き交う人々を茫然と見ることしか出来ない。しかし、以外にも心の中は冷静なもので焦ってはいなかった。いざとなれば一人で帰れるからだろう。
「……どうしよう。」
心配されてたら何だか悪い。
探した方が良いのか、それともじっとしていた方が良いのか。でも、こういう時考えてしまうのは悩み事だ。
自分から吐き出される白い息を見つめながら視点の定まらない景色を何となく見ていた。ただ、それだけなのに。
「こんにちは。きみ可愛いね。」
その言葉で一気に視界が開けた。これは別に初めての経験では無い。
中学生の頃に道を尋ねられて私は案内してあげた。でも、人通りが少なくなった所で男の人が豹変して、突然後ろから抱きついて来たのだ。勿論慌てたが、それよりも耳元で囁かれる卑猥な言葉が気持ち悪くて、固まってしまった。直ぐに三郎が助けてくれたお陰で何事も無かったが、それ以来知らない男とは話をするなと言われてしまった。そんな無茶な……と思ったが、それを言えば三郎と雷蔵がきっと不機嫌になってしまうから心の中に留めておくことにした。
だから今の状況をあの二人に見られると私は怒られてしまうのだ。
「暇ならさぁ、ドライブでも行こうよ。」
「……あの、私友達を待っているので。」
「友達?こんな所で?もしかして逸れたとか?それなら丁度良いじゃん。」
丁度良いのか……?
若干首を傾げそうになったが、男の人は私の腕を掴み強行手段で連れて行こうとする。
何を言ったら引いてくれるのか、頭の中でぐるぐると考えていた時。知っている声が耳に届いた。
「……おい。」
強面で声の小さい私の先輩。中在家先輩だ。
私は飛び上がるようにその場に立ち上がり急いで挨拶をした。
「あけましておめでとうございます…!」
私よりも先に先輩が気付くなんて、なんてことだ……!とんだ不躾だと、深く反省していた。
「なんだ、お前も居たのか!長次がいきなり居なくなるからどうしたのかと思ったよ。」
お次は七松先輩。
またもや顔見知りの先輩で余計に慌ててしまう。こんな目立つ人が分からなかっただなんて、どうかしていたのかもしれない。
「それで、この男は誰だ?知り合いか。」
「それ、は……」
何て言ったら良いのか。考えている途中で私の腕を掴んでいた彼は小さく悲鳴をあげて何も言わずに去ってしまった。
不思議そうに背中を見つめていると中在家先輩が大丈夫かと聞いてきた。
大丈夫です、ありがとうございました。と口にしたのは一拍あと。
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