10

温かさは正義

「それにしてもあの二人と逸れるとは、珍しいな。」
「そうですか…?四六時中一緒に居る訳ではありませんし……きっと人混みが酷くて見失ってしまったんだと思います。」
「ふぅん……なら暇だな!今から文次郎の家に行くんだ!」

そう言われて半ば無理矢理連れて行かれた私は、今何故かトランプをしている。あったかい炬燵の中で。

「善法寺先輩、こっちがババですよ。」
「え?じゃあそっちにしようかな…。」
「だ、駄目ですよ!先輩もう三敗してるんですよ。大人しくこっちを受け取ってください!」
「翠ちゃん……。いや、君も三敗してるからね!」
「こ、これも計算の内です……!」

そんな攻防戦が続いた結果、結局私が負けてババを取られる羽目となった。善法寺先輩、これで三連敗……。合わせて四敗だ。

「お前等……ババ抜きの趣旨を間違ってないか?」

呆れたように呟く食満先輩。それを言われると何とも言えない……。
私が曖昧に笑い返すと潮江先輩宅にチャイムが鳴り響く。当の潮江先輩は面倒くさそうに立ち上がり、部屋を出て行った。
私がトランプを念入りに繰っていると、入り口から物凄い音が。私が後ろを振り返る前に背中に重みが加わり匂いで誰か分かった。

「……雷蔵?」

先輩いるのに挨拶しないと……。
真っ先にそう思ったが、そんなことを言ってしまえば怒られる気がして口を噤んだ。
ごめんなさい、と当たり障りの無い言葉で、腕の力が少し弱まる。

「あー…凄く心配した。」

心配させて悪かったなぁ、と思いながらも炬燵から離れるのが少しだけ嫌だった。
しかし、今日私が携帯電話を忘れなければこんなことにはならなかった筈。自分の過ちのせいで私は彼に余計な心配をさせてしまったのだ。

「中在家先輩、ありがとうございました。」
「……気にするな。」


そうか、中在家先輩が連絡してくれたのか。
ありがとうございました、と中在家先輩に頭を下げた。なんだ、もう帰るのか?と七松先輩はつまらなさそうに言っている。
七松先輩にもお礼を述べると、いつものように二カッと笑った。
各先輩達にお礼を言いながらも外へ出て、まずは一番素朴な疑問を述べた。

「他の皆は?」
「三郎を宥めてるよ。それより、聞きたいことがあるんだけど。」
「……?どうしたの?」

何故か真剣な眼差しを私に向ける雷蔵。何か聞かれるようなこと、あっただろうか?と頭を軽く傾けた。

「ナンパされたって、本当?」

きっと、あの炬燵の暖かさで、そんなことは忘れてしまっていた。




.