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馬鹿なことだと私は笑う

「あ、の……」

こわくてこわくて、そんな言葉しか出ない。

「本当、だけど……、別にそんなに話して無いよ?話し掛けられて、直ぐに中在家先輩と会ったから。」
「どんな顔だった?年とか、格好とか覚えてる?」
「……何でそんなこと聞くの?」

思えばこれがいけなかったのだろう。そんなこと聞かなくても、分かっていた。どうやってるのかは分からないが、二人にかかれば先程の人物を見付け出すことなど容易い。

「翠は気にしなくても良いんだよ。」
「だめだよ。私、何かされた訳じゃ無いし雷蔵と三郎が何かする必要は、」
「ダメ。人間は過ちを繰り返す生き物だから。まぁ、別に中在家先輩に聞いても良いんだけどね。」

中在家先輩を出されては何も言えない。先輩に何かをお願いするのは失礼だし、かと言って彼等の無慈悲な暴力を見逃す訳にもいけないし……ああ、どうしたら。どうして。どうして私がこんな風に責められなきゃいけないの。

「………雷蔵なんて嫌い…。」

言ってから気付いた。今、声に出した気がする。声に、出した……?

「翠、」
「ち、ちが……!」
「分かってるよ。翠に嫌われるのは嫌だし、もう聞かない。」

笑いながら言っているけど、わたしはにはその顔がいつもの笑い方と違うと分かった。

そして思ったのだ。やってしまった、と。

どうしようどうしよう、嫌われてしまう。雷蔵に、三郎に、皆に嫌われて、………嫌われてしまう?

私は今、何を考えていた?
嫌われないように彼等と接してどうするの?私は彼等と友人なのに、反論して見放されることを怖がって、それで勝手に困惑して。
ばかみたい。

今、私の思惑がどうしようもないくらい馬鹿で愚かで不様だ。こんなことじゃあ嫌われても仕方が無い。
違う。嫌われない方がおかしい。

気付くのが遅かっただろうか。これはもう、取り返しのつかないことだろうか。
助けてくれなんて言わない。ただ、誰かに聞いてほしい。私の抱える悩みを全部、聞いて欲しかった。

「翠。」


その声に少し震えたが、声音は優しくて、冷え切った私の手を暖かい手のひらで包んでくれた。こういう時、感が鋭い彼には困ってしまう。
でも、その優しさが嬉しくて、鼻の奥がツンとした。

「三郎……」
「雷蔵と何かあったんだろ。」
「……あのね、」

雷蔵に酷いこと言っちゃった。雷蔵のこと大好きなのに、嫌いって言ってしまった。きっともう雷蔵に嫌われた。

ポツリポツリと零れる言葉を、何も言わずに三郎はずっと聞いていてくれた。否定も肯定もせず、ただ手を繋いで横に居てくれた。
そういえば、昔から溜め込んだ私の長話を聞いてくれるのは三郎だった。
軅て雷蔵の話からずれていき、学校の話になって家族の話になって本当に些細なことの話になって、最後に三郎の話をする。

そういえば三郎が、と三郎に向かって言うのだから本当に可笑しな話だ。それでも彼はへぇ、やら、そうか、やら普段と変わらずに返事をする。
最後は、おしまい、と私が言わないと三郎は聞く体制を辞めない。
顔を覗き込めば三郎はそのまま私の手を引いて立たそうとする。

「ほら、雷蔵の所に行こう。雷蔵は翠に甘いから、謝れば許してくれるさ。」

三郎が言えば、それは本当になるから不思議だ。

ごめんなさいと謝れば、私以上に謝ってくるからやっぱり雷蔵は優しい。




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