15

この温もりの正体は

「翠…!」

名前を呼ばれたかと思うと誰かに体を抱き締められ、それがいつも以上に心地良かった。心の底から安心できる時、というのはこういう時なのだろう。

「どうしたの、三郎?」

彼が人前で私に抱き付いてくるなんて、珍しくこともあるらしい。ふふふ、と笑えば抱き締める力が強くなる。

「今まで何処に居たんだ。」
「…図書準備室で間違えて閉じ込められちゃって。」

ドジだよねぇ、と再度笑えば三郎は苦しそうに顔を歪める。
ああ、そんな顔にさせたい訳じゃないのに。

「図書準備室は気付かなかった…。怖かっただろう、迎えに行けなくてすまない。」

これはきっと、昔の話をしているんだ。私が小さい頃、かくれんぼをしている時に押入れに入ったまま出られなくなった時があった。直ぐに三郎と雷蔵が見つけてくれたけど、私はわんわん泣いてしまったのだ。

「もー、私今高校生だよ?それに、今は明るいし、平気だよ。三郎と同じクラスの冴木くんっているでしょう?彼が気付いて助けてくれたの。」
「冴木……冴木雄太か。」

その名前を聞くと何やら考え出したが、答えが出る前にもう一人現れた。

「あー!翠!」

私の名前を呼んで近付いて来る勘ちゃん。駆け足で近寄って来たかと思えば肩に飛びついてくる。三郎や雷蔵よりも大きな体で、そういえば初めて勘ちゃんに抱き着かれたな、と思った。直ぐに三郎によって離されたが。

「先に帰ってごめんね?大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」

二人に連れられて皆の居るところに戻ると、雷蔵が同じように抱きついて来たが、今度は剥がされることなく少々苦しい中でも笑った。心配させてしまったが、それが何だか嬉しいくて、心が温かくなる。

「あのね、話があるの。」

どうたの、と笑う雷蔵と不思議そうに首を傾げる三郎。他の三人も多種多様な表情をする中で、私は静かに口を開いた。目線は下を見たままで。


「私、冴木くんと付き合うことになったの。」

誰も何も話を始めない中で、私は言葉を続けた。

「だから、今日から一緒に帰れないの。ごめんね。」

そこでやっと目線をあげて皆を見渡すが、何も言わない。雷蔵なんかは目に見えて固まっている。

「さ、三郎?どうしたの?」
「あぁ…いや、なんでもないよ。いつから冴木と?」
「え?さっき、助けてくれた時だよ。」
「助けてくれた、な…。分かった。じゃあ暫くは翠と帰れないのか。」
「暫くって…そりゃ翠に失礼だろ。」
「高校生カップルなんて、三ヶ月で大体破局するだろ。」
「だから本人を目の前にそんなこと言うなって。」
「そうだよ〜。私、浮気なんて絶対しないから!」

三郎とハチくんと私、三人で冗談を言い合いっていると、先生に呼ばれたので五人にまた明日、と声を掛けてその場を離れた。


「冴木って誰。」
「冴木雄太だよ。同じクラスに居るだろ。」
「ああ、あの糸目の。」

そんな会話が聞こえ、続きが気になったが再度先生に名前を呼ばれた為、後ろ髪を引かれつつも教師の元へ向かった。




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