01

はじまった

私には、幼なじみがいる。それは男の子が二人。名前は鉢屋三郎と不破雷蔵。

顔の見分けが付かないほど二人は似ているのに、性格は正反対。そこが良いのか、私は勿論校内中の女の子が彼等のことを好きだ。

そんな二人を狙う子も多くて、毎日と言っては過言では無いほど呼び出しをくらっているらしい。特に新入生の多い春は凄い。
幼馴染みの私はどちらかを狙っていると思われがちだが、私はこれっぽっちも興味が無い。というか、男にまだ興味が無いのだ。

そんなある日。


私はその時図書室に居た。本が好きだからでは無くて、私が図書委員だからだ。それなのに、ついつい転た寝をしてしまい、そのまま閉館まで寝てしまった。

目を覚ませばとっくに閉館の時間は過ぎており、夕焼けに目を細目ながらも急いで戸締まりをした。

ふと。
図書準備室の方から音がし、まさか誰か来たのかと少し焦りながらもその方向へ近づいた。そっとドアを開けると中の声が新鮮に聞こえてきて、聞き覚えがある声が。

私は二三歩下がり、踵を返しその場に腰を下ろした。

男に興味が無い私は当然恋にも興味が無く、恋に興味が無い私は性行為を知らない。
言葉は知っているが、その行為をしたことも無いし、勿論見たことだって無い。

私は勘違いをしていたのか?
恋愛と云うものは男女がするものであり、同性では有り得ないとばかり思っていた。今まで、同性に恋するなどといったことが無かった為、異性に恋をするのが普通とばかりに思っていた。

いやいや、普通だ。普通。彼等が少し特例であって、異性への恋が普通だ。騙されるな、自分!

勢い良く立った為、体が本棚に当たり、数冊の本が床へ落ちてしまった。拾おうとしたが、直ぐに優先順位が間違いだと気付き、慌てて隠れた。

誰だ、と低い声を発しながら図書準備室から出てきた幼なじみに恐怖を感じながらも、息を潜めた。
私のことを探し出すかと思えばドアの方へ近付き、鍵が掛かっていることを確認した。そう、内側から鍵が掛かっているのだ。きっと彼等が入ったと同時に鍵を掛けたのだろう。

「だから学校は嫌だって云ったのに……」

雷蔵が出てきて、呆れたように愚痴を溢した。

「鍵が掛かってるから、本が落ちただけだと思うけど、もう学校では出来ないな。なるべく控えないとな。」
「控えるじゃなくて、止めた方が良いと思うけど……。」
「雷蔵……可愛いっ…!」

顔を赤くして反らしたが、それを制しキスをした。私が見ているのに、そんなこととは知らず、二人のキスは深いものへと発展した。
息が苦しいと悶える雷蔵に、三郎は好きだと囁いた。

――気持ち悪い
俯いてそう考える自分が一番気持ち悪かった。

幼なじみの彼らを軽蔑し、侮辱している気がする。勿論、彼等のことは大好きだ。しかし、それとこれとは別だ。

(何云ってるの)

止めてよ、応援しなさいよ。
私は彼等の幼馴染みで親友なんだから。

悔しくて、腹立たしくて、感情が入り交じって流れる涙は制服に染みを作り、その間に二人は部屋を後にした。

きっともう遅いのだ。彼等の愛は今に始まったものではないだろう。それが何よりの証拠。まるでインクがきれて使えなくなったペンのように、もうその事実は取り消せない。

親友と思っていたのに、二人は私に隠しごとをしていた。

それが何よりも悲しかったのだ。




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