02

塗り固められたウソ

「あ、翠。」

その声に、内心ドキリとしながらも振り返る。どうして彼が居るのだろう、と考えはじめて直ぐに気付いた。そういえば、彼は今日図書当番だったはず。

「雷蔵……今日は朝早いんだね。どうしたの?」
「今日は図書委員が当たってて……。翠こそどうしたの?今日は何も無いんじゃなかった?」
「うん。何も無いんだけど、今日は早く目が覚めちゃったから、お母さんと一緒に出たの。」

本当は、二人に会いたく無かったんだけど。でも、そんなこと言えない。そして私が次に言う言葉は決まっている。

「手伝おうか…?」

この時だけ、自分が図書委員なことを憎んだ。そうでなければ私は教室で寝ていたのに。
何よりも、幼馴染みを見ると昨日のあの光景が甦る。
雷蔵は何も言わないかもしれない。でも三郎は違う。はっきりしている性格だから、きっと私を見放す。それが怖かった。

手伝おうかと聞いて、嬉しそうにはにかむ彼と共に学校まで歩き、他愛の無い話をしながら作業を進めていた。時間は大丈夫かな、と時計を見たときだ。

「翠!」

不機嫌な顔の三郎が図書室に入って来た。私はと言えば、バレてしまったのかと少し焦る。

「きみはまた……先に行くなら言っておけよ!わざわざ家まで行ったのに……。」
「えっ、家まで来たの?ご、ごめんなさい…。」

雷蔵が居ないから一人で行くと思っていた。三郎はそんな非情な人間では無いのに。
やってしまった、と顔面蒼白させて私は頭を下げて謝った。

「雷蔵は悪く無くて、その、私が気分で家を出たから全く関係無くて、だから、その、ごめんなさい…。」
「全く……次からは気を付けろよ。」

次があるんだ、と何だか嬉しくなり、それからホッとした。まだこの関係は続くのだ、と。

(あれ…私、邪魔……?)

ふ、と。
思い出すにしては遅かったかもしれない。私はこの空間に必要とされていないのでは無いか?
大変だ…!

「私、友達に用があるから先に教室戻っても良いかな?」
「あ、うん。手伝ってくれてありがとう。」
「ううん。それじゃあ、またね」

彼等に向けた背中が少しだけ寒く感じた。




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