05

哀れな夜の楽しい聖夜祭

パクッと。私は味のしないポテトを食べた。おかしいなぁ、味付けはしたのに。

テレビから聞こえてくる笑い声にも、私は笑えなかった。せっかく作った一人では多すぎるこのクリスマスに彩られた食卓も、私には眩しすぎる。

「あ、お兄ちゃん……」

テレビに映る兄の姿を見てどうしてか、悲しくなった。兄が芸能人というのも、こんな時は悲しい。
一人ぼっちの妹を置いて、彼は画面の向こう側で笑っているのだから。しかも生放送。

すると司会者が聞いていた。一緒に過ごす人は居ないんですか?と。そういえば、お兄ちゃんこの間綺麗な女の人と一緒に居た。もしかして新しい彼女だろうか?

『彼女は居ませんよ。過ごしたい人は妹かな。でも、いつも妹の幼馴染みに取られてしまうんですよ。』

家族思いですねー!と笑う司会者。
今日は私一人なんだよ、お兄ちゃん。でも、優しいお兄ちゃんはきっとこの仕事が終わればすぐに帰って来るだろう。だから言わない。彼女が居ないと言うのも嘘だ。彼女が居ないのを見たことがない。

「さみしい……」

そう呟いただけなのにも関わらず、何故か凄くゾワッとした。駄目だ。言葉にすると余計に寂しい。

今頃二人は仲良く過ごしてるかな。
そう考えると、少し安心できた。でもちょっぴり泣ける。

「もう…寝ようかな…」

まだ8時だけど。やることも無いし、冬休みの宿題は粗方済ませてある。年を越す前には終わるだろう。


その時だった。家のチャイムが鳴ったのは。

誰だろう?お母さんもお兄ちゃんも有り得ないし、他の来客は思い付かない。宅急便とかかな?

そう思いながら慌てて私は玄関を開けた。

「はぁい、…………えっ」
「メリークリスマス、翠。」
「母親は夜勤だろう。既に母親からは聞いているから嘘は通用しない。」
「あ……めりーくりすます……。じゃなくて、どうしたの…?あの、なんで…?」
「何で、って。クリスマスは三人で過ごすのが、当たり前でしょ。」
「急に遠慮するようになって……まさか、誰かに何か言われたのか?」

あっけからんと、私は呆けてしまった。それでもやっぱり嬉しくて、駄目だと思いながらも私は家の中へ招いてしまう。
後日渡そうと思っていたクリスマスプレゼントを二人に渡せば、どちらも笑顔で受け取ってくれた。
ただのマフラーなのだが、既製品ではなく私が編んだ。でも恥ずかしいからそれは言わないでおこうと思う。

メリークリスマス

サンタさん、最高のクリスマスプレゼントをありがとう。
そう思いながらもう一度食べたポテトは、何故だか凄く美味しく感じた。




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