06

寒すぎるくらいが丁度良い

「翠ー、」

玄関から三郎の声がして、私は慌ててコートを着た。近くに落ちていたマフラーも掴み、小走りで玄関へ向かう。そこには幼馴染み二人が居て、私は自然と笑みが零れた。

「前空いてたら寒いよ。」
「ほら、マフラー貸せ。」

雷蔵は開いたコートを閉め、三郎はマフラーを巻いてくれた。ありがとう、と伝えれば、いつもどおりの笑顔が帰ってきた。

「兵助達はもう着いてるって。」
「えっ!ご、ごめんね、私の仕度が遅かったから…」
「大丈夫、何か用があって先に行ってるみたいだから。」
「あ、そうなんだ…。でも、走って行こう…!」
「一番走るの遅い奴が何言ってる。別に急がなくて良いんだよ。」
「……そうかな?」
「急がば回れって言うしね。」


(あ、私のあげたマフラーだ。)

二人とも、あげたものを付けているから、お揃いになっていて、これをみた兵助くんの表情が目に浮かんだ。
兵助くんに悪いことしちゃったのかな……でも、二人は付き合ってるし、……どうするのが良かったんだろう…。

「ほら、行くぞ。」
「――あ、うん…!」

三郎に手招きされて、私は家を出た。でも、やっぱり兵助くんのことをどうしても考えてしまう。
三角関係って、このことを言うのだろうか?まさか私の周りで起こるとは思いもしなかった。





→ →


「あけおめー!」

気の早い勘ちゃんが、そんな言葉を口にする。今日は大晦日。あと数時間で年を越す。
今年の年越しはどうやら五人でするみたいで、初日の出も五人で見る。御節料理は家に作ってあるから大丈夫だし、お母さんはこう言う時こそ稼ぎ時だと言ってまた仕事を入れている。お母さんの休日は大方平日。だからお母さんと一日一緒に過ごすことは殆どない。

「勘ちゃん元気だね。」
「おしるこ食べたからねー」
「おしるこ?」
「あっちで貰えるよ。翠も食べる?」
「食べる…!」

勘ちゃんに手を引かれて、そっちの方へ歩いて行く途中でそっと兵助くんに目を向けた。
いつもと変わらず四人で話す姿を見て、何故だか私が泣きたくなった。

「翠、大丈夫?」
「えっ?なんで…?」
「泣きそうに見えたから。」

ドキリとした。
勘ちゃんの丸い目が、何もかもお見通しだと言っている様で、何故だか少しだけ怖い。

「煙が目に沁みたのかな…?少し痛くて。」
「……そっか。じゃあ少しあっち行こう。」

そう言いながらおしるこを私に渡して煙の無い方へ向かった。

一口飲めば、冷えきった体に温かさが周り、私はほっと一息つく。勘ちゃんが話を始めたのは突然。
そんな様子も無かった筈なのに、

「あの二人、同じマフラーだね。」

その一言で、体がまた冷えきった。




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