途切れない疲労感

結果として、文字通り千歳の身体を使った献身的な努力によって、彼は死柄木から1日解放される権利をもぎ取ることが出来た。
仕事の早い部下は千歳の言う通りに契約書を作成し、確認して自分の名前を押印したものは既に雄英高校へと送り済みで、あっという間に千歳の初出勤日となった。

目の前に聳え立つ『雄英バリアー』を一度上まで見上げつつ、スマートフォンで根津へと連絡を取るとややあってから一人の男が迎えにやってくる。
黒い伸ばしっぱなしのぼさついた髪に、首から肩にかけてぐるぐると巻かれている分厚い布の様な物に普段であれば目が行きそうなものだが、今はそんなことよりも両腕のギプスに顔じゅうに巻かれた包帯が圧倒的に目立っていた。
その怪我の様子に、嗚呼彼が、と千歳は勝手に一人で納得する。


「初めまして、医療ヒーロー【ドクター】。本日授業をお願いする1-A担任の相澤消太です」


抹消ヒーロー【イレイザーヘッド】――相澤が千歳を見て小さく頭を下げた。
知る人ぞ知るアングラ系ヒーローだが、千歳も負けず劣らずのアングラ系ヒーローだ。恐らく彼は自分の事を知らないだろうと思いつつ、それでも大して紹介できるようなこともないのでよろしくお願い致しますと簡潔に返答をして同じように小さく頭を下げる。

ヒーローの中には素顔は勿論、本名や年齢すらも全て隠しているというのは決して珍しくはない。
人気が出れば詳細が隠されているヒーローは逆にミステリアスだと人気が出るパターンもあるからだ。勿論、ただプライベートを暴かれたくない人もいるだけだが。
そして、千歳もそのタイプのヒーローだった。が、彼の場合は俄然後者が理由だ。顔が割れれば動きずらい。――とはいえ、ヒーロー免許を持っている為、一部ヒーローや雄英教師には割れているだろうが。
故に相澤と違って今は本名で挨拶をしなくとも、訝しい顔をされることはない。

彼は千歳と同じように口数の多い人物ではないようで、挨拶もそこそこにこちらへと目的のグラウンドの方角を指さして歩き出した。
授業内容に関しては事前に校長と担任に伝えているため、相澤も千歳に敢えて聞きたいことなど特になさそうではあったが、杖を突きながら少し後ろを歩く千歳をちらりと見る。


「ご存じとは思いますが、来週に体育祭があるので生徒たちに大きな怪我はさせないようにお願いしますよ」
「勿論です、生徒たちの力を見る程度ですから問題ありません」
「…後、気性の荒い奴もいるのでご注意を」


それを聞いたところでグラウンドに到着すると同時に、校舎からわいわいと騒がしく未来のヒーローたちがやって来て、ついでにタイミング良くチャイムも鳴り響いた。
チャイムが鳴ったのに急いでこちらに来たのは几帳面そうな眼鏡を掛けた少年のみで、残りの生徒たちに対して髪を逆立てて静かに怒りつつあった相澤に彼らは気付くと慌ててグラウンド中央にやってくる。
チャイムが鳴ったらさっさと来る、さっさと座る、時間を無駄にするな。という真っ当な相澤からの注意に生徒たちははぁいと返事をしつつ、彼らは相澤の隣に立っている千歳をじろじろと見た。


「さて、今日は特別授業。こちらが臨時教師の医療ヒーロー【ドクター】だ。しっかり学べよ」


簡単な紹介だけしたところで、相澤は後は頼みましたよと校舎内へと戻っていった。
そんなやり取りをしている間に生徒たちはざわざわと、知ってる?いや、知らない…怖そうな先生だ等と、本人を前に不躾な話をこそこそとしていた。
千歳自体こう言った事はよくある反応で目立ちたい訳でもないので全く気にならないが、有名になりたいヒーローだったら率直なその意見はなかなかにダメージを与えられそうだ。


「医療ヒーロー?救助訓練みたいなもんか…?」
「でもそれならどうしてグラウンドなんだ?」
「デクくん、知ってる?」
「医療ヒーロー…出て来そうなんだけどな…」


医療ヒーローという肩書きは両親が現役時に使用していたコードネームだったが、ヒーロー名もドクターと来れば彼らの頭に浮かぶのは結局実践出来なかった“嘘の災害や事故ルーム”USJでの救助訓練であった。
しかしそれではグラウンドである必要性がないと言う誰かの言葉に納得し、授業内容への疑問が膨らむ。


「イレイザーヘッドに紹介をしてもらったので、私から言う事は特にない」


ざわつきを咎めるように言い放つと、友好的ではない新たな教師に生徒たちはぴたりと言葉を止めた。
顔全体を覆う革製のペストマスクを付けているので、表情が窺えないというのも彼らの不安を煽るのだろう。

静かになった事を確認した千歳はグラウンドに置かれていたタイム計測器を弄り出す。
体力測定の時にいた自立型ロボットではなく、何秒かを目視できる従来のタイム計測器だ。
15分にセットしながら、その様子を見つつ何を言われるのかと身構えている生徒たちに向けて。


「とりあえずお前たちの力量を図ろう。時間内に誰か一人でも私に触れればお前たちの勝ちだ」
「は?! 」
「言われた事はすぐ理解しろ。体育祭前に実力を隠したい者もいるだろうが、その状態で私に触れられればいいな」


多数の生徒から意味が理解できないと放たれた言葉を一蹴したついでに挑発も加えて、タイム計測器のスイッチを押す。
計測器は与えられた使命通りに即座に15分から秒数を減らしていき、それを確認しながら固まったままの生徒たちを眺めた。

突然見知らぬ人物から与えられた条件でも、千歳が思ったより早くに戦闘態勢に入るのだから流石雄英高校と言うべきか。
そう関心しながら、タイム計測器が巻き込まれないように数歩離れて杖を前に出し先端に両手を重ねる。完全な待ちの姿勢だ。


「上等だわナメんなよ…!」


一番最初に飛び出したのは、クラスの中でもやはりと思うほど予想が出来たシャンパンゴールドの髪の少年――爆豪だった。
彼と千歳では多少距離があったため、腕を後ろに振って推進力として利用した爆破で跳躍し、ぐっと距離を縮めた勢いを殺さず、今度は両腕を千歳に向けてばちばちと小さな破裂音を掌の中で鳴らす。
よもや触れる合格条件より敵を破壊することを優先しているようだが。

他人に高圧的な態度かつ時間が限られた中で挑発された場合、一番最初に突っかかってくるのは率直に言えば短気な者だ。
そうでない者がやってきた場合は自信の表れ、ないしは自分が最も優れているのだと他者へと見せびらかす場合。それに加えて乱暴な言葉でかかってくるなら、圧倒的に前者かつプライドの高い者だろうと千歳は予想していた。

一番乗りで飛び込んできた爆豪をそんな風に分析しながら、自分の眼前へと近付く彼の両腕を――仕込み杖を開いて居合切りの要領で両断する。
余りに一瞬のことで、分断された腕に爆豪が気が付いたのは、爆破させようとした掌に力が入らなくなった時だった。


「は?」


跳躍によって空中に浮いていた爆豪から、ずるりと両腕が落ちる。
痛みもなく突然ずれた自身の腕に対して唖然としていると、それに気を取られてバランスを崩し、地面へと盛大な音を立てて滑り込んだ。
うつ伏せの状態からすぐさま立ち上がろうとするものの、肘より下がないことに慣れきれずまたしてもべしゃりと地面に突っ伏す。そんな爆豪を見て、緑色の髪の少年が「かっちゃん!」と大きな声を上げた。


「戦闘センスはあるようだが“個性”のわからない相手へ正面からは余りにお粗末だ」
「爆豪の腕が切れた!取れた!」
「ちょ、ま、は?!どんな個性だ?!」
「爆豪!大丈夫か!」


切断した爆豪の両腕を空中で纏めて右手で掴む様に、大小様々な悲鳴が生徒から湧き上がる。
突然両腕を切断された同級生を前に戦きながらも混乱する頭で千歳の個性を予想する者、腕を切断された爆豪を心配する者、突然のことに頭も回らず立ち尽くす者…様々ではあったが、千歳が目を向けるのはそれでも未だ戦闘態勢を解かない者だ。

戦闘態勢を解かない者を警戒をしつつ、持っていた爆豪の両腕を地面へ置こうとした時、パキパキと音を立てながら地面が凍っていくのに気付いて結局腕を置かずに跳躍してその場から離れる。
紅白髪の少年の足元から広がる氷の海を見て、ある種人質のような立場にある爆豪の両腕を配慮していない行動に少し眉を寄せた。


「轟、だったか。私が爆豪の腕を地面に置こうとしていたのを見ていたはずだが…それごと凍らすつもりだったのか?彼の腕は考慮しないと?」
「それは…」
「もう少し丁寧に“個性”を使え」


千歳の言葉に一瞬戸惑った紅白髪の少年――轟へ、一度の跳躍で眼前まで近付く。
突然近付いてきた敵に対して、すぐさま氷の壁を発現させるが仕込み杖はあっさりとそれを砕いて再び近付いてきた。
とりあえず最も大事な頭を守るために両腕をクロスしつつ距離を離そうとさらに後ろへ跳躍するのは戦闘慣れを感じさせたが、千歳自身の“個性”に対しては何の意味もないそれを仕込み杖で両断する。
爆豪と同じように両腕を綺麗に切断された轟は、着地の際に両腕がなくなったことよってバランスが取りにくくなり、背中から地面へ追突した。

あっという間にクラスの中で一二を争うと思われた面子が行動不能に陥らされたことにより、他の生徒は尚動揺する。
特に攻撃的な“個性”を持つ二人が倒されたことにより、「あんなん無理だろ!」と嘆きつつ戦意を喪失した者もいるように見えた。
切断され地面に落ちた轟の両腕をそのままに、その横へ爆豪の腕を置きながら生徒たちの様子を窺う。

しかしそれでも諦めず千歳の背後へと回った二人の気配を感じて後ろを振り返ると、黒い鳥のような影と分厚い尻尾が襲い掛かってきた。


「常闇と尾白か。後ろから攻めるのはいい攻撃だが気配が大きい」


黒影の手を仕込み杖で受けて跳ね返し、尾白の尻尾を跳んで躱しつつ、今度は二人の膝下を切断する。
突然重心を失われた足に二人がぐらりと体制を崩す中、それでも冷静に常闇は指示を出して黒影をそのまま千歳へと向かわせる。
伸びてきた鋭い爪の猛攻を仕込み杖の刃で凌ぎながら、良い“個性”で本人も冷静だと千歳は感心していた。

そんな鋭い爪を一旦やり過ごしぱっと地面に降り立った時、左ブーツの底がぬちゃりと鈍い音を出して上がらなくなったことに視線だけで地面を見る。
透明なテープを補う様に粘着質な液体が地面を這い、尚且つテープが外れないように紫色の丸い物体で地面に縫い付けられていた。
自分たちより動きが速い相手に対しての即席トラップは良い判断だと思いつつ、相手の対応によってはそれすらも無を帰すことがあるというのを教える様に、ぐっと膝を曲げて跳躍の勢いでトラップに掛かった靴を脱ぐ。
裸足ならともかく、靴を履いていれば脱ぐだけで解決されることは拘束ではない。


「瀬呂、峰田、八百万だな。良いトラップだが、靴越しだとこうやって抜けられることも考えろ。トラップに嵌めてから追撃までがワンセットだ」


着地を狩るように伸びてきたテープを躱しながら、瀬呂の“個性”がある部分を避けて肘上、峰田・八百万の肘下を両断する。同時に甘かった部分を伝えるも、自分の腕が切断された驚きで三人とも千歳の言葉は頭に入っていないようだった。

未成年には刺激が強すぎただろうかと斜め上の事を考えて止まっていた千歳の仕込み杖を持つ腕に、ピンク色の舌が伸びてきたのを感じ取りぎりぎりでそれを避ける。
彼女――蛙吹は真正面からの突破よりも本来の合格条件である”千歳に触れる”ということを最優先として見るべきだと考えたようだ。冷静でいい判断である。

彼女を優先して動けない状態にした方が良さそうだと距離を詰めたが、蛙吹に近付かせまいと二人の間に青山のレーザーが伸びた。
レーザーを避ける為に後ろに跳躍したのを狙って伸びてきた赤髪の少年の腕を防御のために切ろうとしたが、仕込み杖の刃は彼の身体には通らずガギンとまるで岩にぶつかるような大きな鈍い音が鳴る。


「刀なんて俺には関係ねぇ!」
「切島か。良い“個性”だ」


焦りの見える顔ではあったがここを責めるべきだと判断して攻撃してくる腕を仕込み杖でいなしつつ、死角から伸びてきた黒影の爪を寸でのところで避ける。
そこへ体格が大きく近距離戦の得意な障子と砂藤も突っ込んできて乱戦状態となった。
こうなると数が多い方が有利ではあるが、乱戦での経験も少ない彼らでは味方を考慮してうまく動けずにいるようで少し動きが硬く見える。

そんな中、中・遠距離タイプである青山のレーザーや耳郎の爆音攻撃、上鳴の電撃に芦戸の溶解液、口田のアニマルボイスは乱戦中に無暗に放てるものでは無いため、実質動きが止められているのと同じであった。
ステルス性の高い葉隠も、姿が見えていないと逆に味方の攻撃を受ける可能性もある為下手に動けず、触れれば抜群に強い麗日はあの乱戦に飛び込んでいけるほど接近戦が得意な訳でもない。緑谷の強パワーも人が多すぎて打つ訳にはいかなかった。それにあれは諸刃の剣だ。

スピードのある飯田に対しては一瞬で距離を詰められないよう他の生徒たちが彼と千歳の直線状に入るように誘導しつつ、一人、また一人と千歳は順調に足を落としていく。
未だ攻撃を仕掛けてくる黒影の爪をいなしていると、前傾姿勢になっていた切島の背中と頭を踏みつけて、爆豪が千歳に目掛けて飛び蹴りを放った。


「どけ邪魔だクソ髪!」


いくら“個性”でとは言え、自分の腕が突然切られると動揺して思考が鈍ることが多いものだ。それがまだ発達途中で戦闘経験の少ない子どもなら尚更に。
しかしそんなこと知ったことかと言わんばかりの特攻に、千歳は爆豪の勝利への執着心を垣間見た。

――が、その足が千歳へ届く前に終了のブザーが鳴り響いた。
眼前に迫った足裏を右手で受け止め勢いを殺し、左手で二の腕を掴んで引き寄せ、地面に落ちないよう彼を抱きとめる。
咄嗟の事とは言え千歳に抱きかかえられている爆豪を見て、他の生徒達は暴れないかとヒヤヒヤしつつ戦闘からの緊張が抜けて重たく感じる身体を地面へとへたり込ませた。

疲れている生徒たちと比べて、対照的に千歳は呼吸一つ荒げていない。


「思っていたより悪くはない。が、味方が入り乱れると力を発揮できなかった者がほとんどだ」
「(かっちゃんが抱っこされてる…)」
「(爆豪が抱っこされてる…)」


全体に向けた千歳の言葉は生徒達全員身に染みていたようではあるが、今は正直そんなことよりも成人男性に抱きかかえられている爆豪という光景が控えめに言って面白く、無傷で比較的元気な切島に至ってはちょっと噴出してしまったので慌ててそれを咳で誤魔化した。
とはいえ微塵も誤魔化せていないので、それを聞き逃さなかった爆豪がぎらりと獰猛な眼光で切島を睨みつける。


「さっさと放せやクソが…」
「…お前、獣みたいな奴だな」
「ブフッ」
「笑ってんじゃねえ殺すぞコラ…!」


他の生徒たちに同じことをされていれば間違いなく暴れていただろうが、一応相手は教師だということで大人しくしているものの、口元を引くつかせ青筋を浮かべながら剥き出しの敵意をぶつけてくる爆豪に対して、千歳は彼を下ろしながら率直な意見を言った。
冷静にぶつけられた爆豪への言葉に、上鳴や耳郎が堪えきれないと思わず吹き出す。
自分への不躾なそれに対して爆豪は怒りで震えるが、普段は“個性”を使ってバチバチと鳴らす腕がない為、“個性”を使用出来ない彼にはそれを何とか止める手段はなく。


「それぞれの批評をしながら元に戻していくから、手の空いてる者は動けない生徒をこっちに連れてきなさい」


ぴりついた戦闘の雰囲気から一転和やかな空気になり、生徒たちの中で影響を受けていない五体満足な者が、少し離れた距離で動けなくなっている瀬呂たちを運んだり、動けるが自分の腕を持てない轟や爆豪の両腕を抱えて持ってこさせる。
切り離された足は動く…?いや、動かないよ、そんな会話をしながらそれぞれ自分の切り離された身体の部位を手に持ちまじまじと観察しているのは、“個性”の使用によって切り口が見えない状態であるという事を取り除いても、少し異様な光景ではあったが。

千歳はとりあえず一番手近にいる障子の片足を右手に持ち、左手で膝裏を持ってそれぞれの断面を合わせた。
すると離れていたのが嘘のように切られた服ごとぴったりとくっつき、驚きつつ動きを確認するように足首をぐりぐりと回す障子を見て、おぉ…と生徒達から感嘆の声が漏れる。


「まず乱戦状態になった時の障子と砂藤。敵の後ろに味方がいるとき、相手に避けられた後自分の攻撃が及ばないかどうかまで計算しなさい。避けれたとは言え危ない場面があっただろう」
「はい」
「青山が私から蛙吹への攻撃を防いだのは良い判断だったが、その後の乱戦状態の時に参加出来ないことが問題だ。これは他に乱戦に参加出来なかった芦田・飯田・麗日・上鳴・口田・耳郎・葉隠・緑谷にも言える。遠距離型や広範囲攻撃持ち、サポート型もいるのだろうが“個性”を使う以外の近接戦をある程度出来なければ、距離を詰められた際に対応できないぞ」


障子に続いて砂藤の足を元に戻し、次は瀬呂・峰田・八百万の腕を戻す。


「瀬呂と峰田、八百万の三人はさっきも言ったように詰めが甘い。しかし即興のトラップ作成に私の着地場所を計算していたのは良い判断だ。他の生徒と連携が取れていればベストだったな」
「足元へのトラップは改良の余地ありでしたわ…」
「靴を脱がせるだけでも相手は動きにくくなる、無駄ではない」


そこまで伝えたところで、二人分の腕を持ってきた切島に爆豪と轟、黒影に抱えらるようにしながら常闇が千歳へ近付いてきた。


「轟は足止め目的だったんだろうが最初の氷が問題だ。爆豪の腕を置いていたらそれごと凍っていた。もう少し丁寧な“個性”の使い方をしなさい」
「はい、気ィつけます」
「切島は良い動きではあったが、私に触れれば勝利だったのだから攻撃する事より掴むことを優先するべきだったな。尾白も動きは良かったが切島と同じように攻撃に夢中になりすぎだ。評価としては終始触れることを狙っていた常闇と蛙吹が冷静で最良だった」
「教悦至極」
「ケロ」


轟の腕と常闇の足を元に戻して、最後に爆豪の腕に触れる。


「爆豪は…動きは悪くない。最後まで諦めない精神も見事な物だが、切島の了承なく踏み台にするのはどうかと思うがな。後、ヒーローらしからぬ口の悪さも控えた方が良いだろう」
「……」
「ま、まぁまぁ先生。俺は“個性”発動中で痛くなかったし、多分爆豪もそれをわかってやったと思いますよ」
「…意外と考えるタイプか?」
「ブフッ」


切島の言葉に少し驚きつつ大真面目で失礼な事を言う千歳の言葉に、またしても何人かが吹きだした。
いつもならこれでまた爆豪がキレる場面ではあったが。真正面から口の悪さに言及されていた手前、歯噛みしながら睨みつけるだけで何とか耐えることにしたらしい。
そして切島の考えていた通り、爆豪が切島を踏み台にしたのは彼が“個性”を使用していて少年一人の体重なら痛みを感じないことを理解していて文句を言われることがなく、尚且つちょうどいい所に居たから踏んだというのも事実ではあった。オールマイトも思っていたが彼は意外とみみっちい。

全員の身体を元に戻して一旦落ち着いたところで、先生!と八百万が挙手しながら千歳へと声をかけた。


「どうした八百万」
「先生の“個性”は一体どういったものなのでしょうか?」
「それが授業の第二段階だ」


八百万へ良い質問だと褒めながら、再度タイム計測器に近付いてスイッチを操作し、5分にセットした千歳を見て生徒たちは再び臨戦態勢を取る。
この時点で授業が始まってから30分ほど経っているが、チャイムが鳴るのはまだまだ先だ。


「次は1対2だ、順番は何でも構わない。制限時間は1組5分、目的は私の“個性”把握」


また切られたくなければ頑張るんだな。そう言った千歳の顔はペストマスクで見えないものの、生徒全員が絶対にちょっと楽しんでるだろ…と心を一つにした。


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