タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/25


 ゾロは私にだけ、触れてこない。最初は気のせいだと思った。ゾロは誰彼構わずスキンシップをするようなフレンドリーなタイプじゃないし、まあ別に、わざわざ触ることなんてないしな、なんて、気にも止めずに。だけど、ナミちゃんの柔らかな髪にミカンの葉っぱが絡んでいたとき、ついてんぞ、と呆れながらも触れて取ってあげていた。ロビンちゃんの艶やかな肌を乱暴に、だけど助けるために手を伸ばし抱きかかえて船に着地したのを見た。
 私には、一切、触れてこないのに。チョッパーと森へ探索に行って帰ってきたとき、毛繕いかのようにチョッパーにまとわりついた葉っぱや何かを取ってあげていたのに私には、今なら風呂あいてんぞ、と視線も寄越さず言うだけで。私が不覚にも足を怪我して動けなくなってしまったときも、一番近くにいたゾロの手が反射的に私に伸びて、そして思い切りしまったと歪んだ表情とともに伸びた手を引っ込めて、おいチョッパー怪我人だ、と声を高らかにあげた。
 ここまでくればいくらなんでもあからさまに避けられていることに気付く。ゾロは、私に触れたくない。

「私のことが嫌いなら、……言ってくれたら、船を降りるのに」

 ナミちゃんのミカン畑を間借りしてひっそりうずくまりながら海に落ちていく太陽を睨みつけながら呟く。虚勢を張ったつもりだったのに、思いの外、音には悲しみが滲みすぎてしまっていて空笑う。

「誰がてめェのこと嫌ってんだよ」

 ゴツ、と重たいブーツの音と、唸るように低い声が背後からして固まる。なァおい、と背中に尚も投げつけてくる声はゾロの声、で。とうとう限界だった私の心が砕けて涙が落ちた。振り返らないことでゾロを拒絶したつもりだったのに、ゴツ、ゴツ、とブーツの音がどんどん近付いてくる。

「おい、誰がお前のこと嫌いだなんて言ったんだよ!」

 猛獣のような低い咆哮に自然と肩が揺れてしまったのは仕方がない。砕けた心を更に踏みつけてくるような物言いに感情が爆発して立ち上がって振り返る。ぼろぼろと涙を流す私を見たゾロの目が戸惑うように揺れたのが滲んだ視界で見えて、だけど爆発した感情はもう止められない。

「私のことを嫌いなのはゾロでしょ?!」
「は、」
「嫌いなら中途半端に優しくなんてしないで!」

 震える声で叫ぶ。決定的なことは言われてなかったのに、自分で自分の寿命を早めてどうするんだろう。でももうすっぱり見切りをつけてほしかった。どうして私だけ触れたくないほど嫌われたのかはわからないけど、中途半端に優しくされる方がよっぽどつらくて、涙が溢れる。

「ちょ、っと待てよ、なんでおれが、」
「触れたくないほど私が嫌いなら、そのうち旅にだって支障が出るでしょ」

 だから早く決定的な一言を突きつければいい、と次から次へと溢れる涙をぬぐってゾロを見上げて固まる。驚くほど蒼白で、可哀想なほど狼狽える視線に、いくら隠していたことが暴かれたにしても未来の大剣豪のひどい有り様に思わず心配になる。

「ゾロ……?」
「なん、なんでそんな勘違い、……クソ、違ェ、嫌いなわけねェだろ!」

 震えた声なんて初めて聞いた。顔を俯かせてもゾロは背が高いから悔しそうに顔を滲ませているのが私からは見えてしまう。

「大事だから、触れねェんだよ、……壊さねェように触らないようにしてんだ、嫌いなわけねェだろ、……でもおれの勝手な行動でお前を傷付けてたなら悪かった。嫌いなわけねェ」

 悪かった、と俯かせていた顔をあげて私としっかり目を合わせて謝る真摯な姿に狼狽える。嫌われてたと思っていたのに、真逆なことを言われているような言葉の数々に頭が働かなくて口が開閉するだけで何も言葉を返せなくてゾロが不安そうな顔をするのが見えて余計に焦る。何か言わなくちゃいけないのに。

「ナミちゃんや、ロビンちゃんだって、大事なのに触れてるのに、どうして私だけ、」

 ようやく紡げた言葉はひどく幼稚で、途中で口をつぐむ。

「……、す、……好きだから、に決まってんだろ」

 ゾロが口籠もったのを聞いたのが初めてで、言われた言葉の意味が把握できなくて思わずぽかんと目も口も間抜けに開いてしまった。

「……好きな女に一度触れたら止めらんなくなるだろうが。困るだろ、お前」