タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/07/25


「寄るな」

 低く吐き捨てられて慌てて距離を取る。半径1メートル以内に入ったら殺す、と言われていたのを思い出して全身から血の気が引く。私に悪意がなかったのを察してくれたのか警告をしてくれる案外優しいクロコダイルさんにホッとして、余裕を持って2メートルの幅を取った。のに、感情があまり出ない暗い瞳が剣呑に光って睨みつけられて固まる。どうしよう。今度は何をやらかしてしまったのか。
 ちゃんと言われたとおり起きて朝一番に電伝虫で起きましたの報告と共に休みでも仕事でも今日1日のスケジュールをプライベートも何もなく報告して、クロコダイルさんの側(1メートルの距離は保たなくてはいけないけれど)に立ってても見劣りしないようにといただいた服を纏って、そして部屋に戻ったらまた報告をする。合間合間にまた細かい制約はあるけれど、クロコダイルさんに課せられた報告はきちんとしているはずで。
 さっきの1メートル以内はもう本当にうっかりだ。だってクロコダイルさんの足の長さと普通の女の人の足の長さを考えてみてほしい。クロコダイルさんは普通に歩いているつもりでも、私の足の長さで追いつくためには小走りにならなくちゃいけない。のんびり歩みを止めたクロコダイルさんに反して私は走っているから急には止まれない。そのおかげでクロコダイルさんとの約束を破ってしまった。本当に悪意はない。寧ろクロコダイルさんにしっかりついていこうとした結果勢い余ってしまっただけで。なんて言い訳はクロコダイルさんに言えるわけもなくぺこぺこと素直に謝罪するだけ。
 そんな私をずっと睨みつけているクロコダイルさんに、私は何をしてしまったのかと問いかける勇気はなくてただひたすら平身低頭している。

「離れすぎだ」
「ウェッ」

 間抜けな言葉は宙に浮いて、頭で理解する前に恐怖で体が動く。慌てて一歩踏み出した。

「遠い」
「えっ」

 まだ駄目らしい。もう一歩。遠い。一歩。遠い。一歩。遠い。
 1メートル以内に近寄ったら殺されてしまうからと一歩がどんどん狭くなっていくせいでやりとりが増える。これ以上近付くとまた1メートル以内に入ってしまう。でもまだ遠いと言われてしまう。勇気を出して大きく一歩を踏み出した瞬間、

「寄るな」

 また怒られて半歩離れた。満足そうに顎を上げたクロコダイルさんに冷や汗が止まらない。常にギリギリでいろということなんだろうか。

「離れすぎると守れねェ。……が、近過ぎると間違えて殺してしまうだろうが。ちゃんと言われたとおりにしてろ」

 面倒そうに吐き捨てられたのに言われた内容は怖くなくて思わず口から溢れ続けていた謝罪が止まった。