タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2021/08/02


 さよなら、さようなら。ぶんぶんと大きく手を振るレディが眩しくて目を細める。クソみたいな領主に食べるものも困るほど金品を巻き上げられていた島の人たちは今、ようやく自由を取り戻してきらきらと輝いている。その中でも一際美しく、可愛らしく、強く、気高く、そして愛らしいレディが頬を真っ赤に染めて喉が潰れそうなほど声を張り上げて別れの言葉を紡いでいる。嬉しくて、寂しくて、涙が滲みそうになる。でも駄目だ、泣いてる暇なんてねェ。ちゃんとしっかりはっきり、彼女をこの目に焼き付けなければ。幸せな彼女の幸せそうな笑顔をこの目に焼き付けて、もっと強くなって、料理の腕前だってあげて、そしてオールブルーを見つけて、どんな時も彼女を思い浮かべられるように。

「サンジさん!」

 あのおれの名前を紡ぐ声も、音も、全部。

「ずっとずっと! ずっと、あいしてます!」

 一際美しく通る声が空と海を駆けておれの耳へ届く。都合の良い言葉が聞こえた気がする。だけどおれがレディの言葉を聞き逃すはずがねェ。

「船長、おれ、宝持ってくるの忘れてきちまった。取りに戻って良いか」
「おせェ! 早く取ってこい!」

 ルフィの返事を聞く前に足は空を駆けていてレディの顔が驚きに満ちる。レディに先を越されるなんて。やっぱり女の人は強い。おれは逃げて、言葉を濁したってのに、そんなおれにまっすぐ言葉を届けてくれて。

「ねえ、レディ、この島にいたときよりももっと危険な目に遭わせると思う。それでも絶対に君を守るし、幸せにするから、おれの手を取ってくれる? ずっと、おれのそばにいてほしい」

 空を飛んだおれに驚いたのかほうけたようにぽかんと見上げるだけのレディに心臓が早鐘を打つ。愛してる、と言ってくれたけど、ただの恩人に対して向ける親愛の意味だったのかもしれない。どうしよう、だなんて今更不安になって、伸ばした手が震えそうになる。固唾を呑んでまばたきをした瞬間、とん、と胸元に何かが飛び込んできて慌てて抱きかかえる。おれの胸にしっかり抱きついているのはレディで、ぎゅう、と無意識に抱きしめる力を強くしてしまう。慌てて柔らかな体を傷付けない程度に優しく抱きしめて、顔を覗き込む。胸元から顔を上げておれとばっちり視線が絡んだレディの頬は熟れたりんごのように真っ赤で愛らしい。

「サンジさんのそばにいられるなら、それだけでしあわせ」

 ふわりと微笑んで告げられた言葉に、またしても先を越されて思わず眉が下がった。

「愛する人が腕の中にいて笑ってくれるなんて、おれァ世界一幸せな男だなァ」

 愛の言葉も、行動も、レディに先を越されてばかりで情けない男だけど、巻き返す時間はこれから先、いくらだってある。