タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2021/08/02
▼
「サンジくんは甘え下手だねえ」
今日は雨だねえ、のテンションで言われて一瞬固まってしまった。甘え下手。そうだろうか。お互い言葉足らずだったけど甘えに甘えてジジイと共にバラティエにいたし、この船の大多数が言葉にするのを躊躇わない実直タイプが多くて好きだのなんだの存分に甘やかされている自覚がある分、その言葉はなんだかそぐわない気がして。
「疲れたなあ、って言ってみて」
「疲れてないよ、大丈夫」
ギョッとして思わず強く否定してしまった。レディからの仮にもお願いに対してひとつ返事で頷かなかったおれは紳士失格だ。なのに、ふふ、と笑うレディはおれの失礼な態度を気にせずにいてくれて、これだって十分甘やかされているうちに入ると思う。
「大丈夫じゃない、って言ってみて」
「大丈夫だよ、レディ」
なのにたおやかな笑顔で続けられた言葉に次こそはきちんと対応しなければと思っていた覚悟が泡と消える。笑みで細められた目が何もかもを見透かすようにおれを見ていて居た堪れない気持ちになった。
「甘やかして、って言ってみて」
「そんな、レディといられるだけで甘やかな日常を過ごせてるのに」
ようやく軽い口が調子を取り戻してきてホッとする。軽口と言ってもおれのレディに対する賛美は全部全部本当で、決して嘘じゃないけれど。おれはいつだって本気で称えているけど、でもそんなのきっと受け取る側は重荷にしかならないだろうからただの軽口と思われてるくらいでちょうどいい。
「素直に言えたら猫のように甘やかしてあげる」
「、」
なのにレディはおれの精一杯の軽口を魔法でも使ったかのようにいとも簡単に奪って固まる。そりゃあ、その柔らかな体に包まれて甘やかしてもらえるならそんな天国なことはない。だけどそこまで甘えるような関係でもない。おれは好きだけど、レディは優しいだけ。優しいから甘やかそうとしてくれるだけ。頭ではわかっているはずなのに男は勘違いしてしまう馬鹿な生き物だから、ちゃんと一線は引いておきたいのにレディはそれを軽々しく飛び越えようとしてくる。
「疲れたなら疲れたなあって言ってもいいんだよ。どんなに強い男の人だって大丈夫じゃないときはあるの。甘えていいんだよ」
ほら、言ってみて。
「疲れた、大丈夫じゃない、甘やかして」
「ふふ、全部のせだ」
おれはダンディなジェントルマンなんだから大丈夫だよ、そう言ったはずなのに音になったのは情けなさすぎる三連発。催眠術にでもかかったんじゃないかと思うほど抗うこともできずにつるりと出ていった言葉に放心する。レディに頼まれから言葉にしただけ。これで満足ですか、レディ、そう紳士に恭しくお辞儀をして立ち去ればいい。今ならまだ取り繕えるはずなのに、言葉にした瞬間、その言葉がまるで呪いのように肩にのしかかっておもたくなる。
疲れてないはずなのに、大丈夫なはずなのに、言葉にしただけで、どっしりと体が重たくなった。どこかに逃げ出したいのに、空も駆けることができなさそうな体の重みに、これ以上余計なことを言わないようにすることだけに集中して唇をまっすぐ引き結ぶ。
「サンジくんは頑張りすぎなんだよ、たまには何もしないでただ甘やかされて」
くい、と軽く腕を引かれただけなのに重かったはずの体がふらりと簡単に傾いてレディの横に誘われるがままに座ってしまう。そのまま人形になってしまったかのように体はされるがままに引き倒されて柔らかなレディの太腿に頭が乗せられた。戸惑う間もなく、言葉通り猫に対するような手つきで髪を撫でられて目頭が熱くなる。
「私はいつだってサンジくんを甘やかしたいんだから」
← →